刀神

□肆ノ太刀
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《デスゲーム》が始まって1ヶ月が経過した。

未だ第一層すら攻略できていない。
















僕は今、第一層《迷宮区》最深部に1人で潜っている。
普段はキリトが一緒なのだが、今日は用事があるとかで別行動だ



〔グオォオォォ……〕

何体目か分からないコボルドがポリゴンの破片に変わる

『ふぅ……』

背中を壁に預けズルズルと座り込む。
長時間の戦闘でこめかみの奥がズキズキと痛む

『(1ヶ月でこの攻略ペース……
このままじゃ第百層なんて絶対無理だぞ;;)』

なんせまだマッピングすら完了していないのだ

『……ふぅ』

もう一度溜息をつき、ゆっくりと立ち上がる。
そろそろ帰らないとキリトに怒られかねないからね



『………?』

出口のある方向へ視線を向けた時、視界の端にチカッと光が走った。

ーーー剣閃だ

『(他のプレイヤーか……)』

しかも雰囲気からして僕と同じソロだ。
まさかこんな所に1人で来る馬鹿が僕ら以外にいるとは……








特に意図があったわけではないが、僕はその光の見えた方へ近付いていった。

すると、見えてきたのはレイピア1本でコボルドと戦っているフーデッドケープを被ったプレイヤーだった

『(ほう……)』

そのプレイヤーの剣さばきに僕は素直に感心した。
最低限の動きで攻撃をかわし、細剣基本技《リニアー》を叩き込む。
まぁ、ほとんどHPの残っていない相手にまで《リニアー》を使うのはオーバーキルにも程があるが……





「…………誰」

『!』

こちらに気付いたそのプレイヤーは敵意剥き出しの声で訪ねてきた。
声から判断するに女性だろう

『そんな敵意剥き出しにしなくてもいいんじゃ……;;

キミみたいな女の子がこんな所で何してるんだ?』

「……ここにいるのに、狩り以外の目的があるの?」

『それもそうだな。

……キミ、まだ潜るのかい?』

「え?」

『帰るなら一緒に出口まで行かない?』

腕はよさそうだが女の子1人をこんな最深部に放置はできない

「帰らない」

『は?』

「街には戻らない。
睡眠はいつも安全地帯でとってるし、武器は同じ物を5本買ってきた。
攻撃を受けなければ、薬は要らない。
だから、街には戻らない」

この最前線にソロで籠もりっぱなし?
正気か?

『死にたいのか?』

「どうせみんな死ぬのよ。
あるのは、早いか遅いかの違いだけよ」

『……なるほどね』

「帰るんでしょ?
出口はあっちだわ。それじゃ」


もう話は終わりだというように彼女は僕に背中を向け歩き出した。








……のだが、数歩歩いて彼女は糸が切れたように倒れた

『(えぇ──────………;;)』


どうやらギリギリだった緊張の糸を切ってしまったようだ。

なんにしても、このままにはできないよな。


まったく、なんでこんな時に限ってキリトいないんだよ

























あのあと、倒れた彼女をいろんな手を使って僕らの借りている宿に運び込んだ
(最終的な手段はとても言えないが)

なかな起きないのでとりあえずベッドに寝かせ、僕は情報屋に貰った攻略本をよんで時間を潰していた

『(キリトが帰ってきたら驚くな)』

そんなことを考えながら新しいページをめくった時……


「ん……」

『!……起きたかい?
細剣使い(フェンサー)さん』

「え……っ」

目を覚ました彼女は体を起こすなり固まった。
まあ起きて見知らぬ部屋にいたらそうなるのもしかたないけどね

『ここは僕の部屋だよ。
正確には僕と僕のパートナーのだけど』

「……余計なことを」

『悪いが、他人を見殺しにするのは僕の趣味じゃない。
これはキミを助けたというより、僕のエゴみたいなものだけど』

そう言って苦笑すると凄いムスッとした顔で睨まれた


『ほら、そんなムスッとしてないでさ。
《迷宮区》に籠もってたんでしょ?
お風呂入ってきたら?』


「……お風呂?」

お、食い付いt……「あるの?」

『あ、ああ……;;』

予想外の食い付きに少々驚きつつも風呂場を教えると小さく礼を言い入っていった








『(どんだけ風呂入りたかったんだよあの子……;;)』

そんなことを思っていると、不意に部屋のドアがノックされた。
コン、コココン と独特の叩き方をするのは情報屋《鼠のアルゴ》だ。
返事をするとドアを開けてアルゴが入ってきた

『やあアルゴ』

「やァ。相変わらず陰気なカッコしてるナ。
室内でもガッチリマフラー装備かヨ。
寒くないだロ?」

呆れたように問いかけてくるアルゴに僕は苦笑しながら

『防寒具ってわけじゃないからな』

と答えた。

アルゴもそれに頷く

「それもそうだナ。
ところでキー坊はどうしタ?」

『用事があるとかで今日は別行動だ』

「ふ〜ン。
今日はアイツに用があったんだがナ」

『そのうち帰ってくるさ』

「いや、また出直すヨ。
……と、読んでるのカ?それ」

アルゴが僕の持つ攻略本を指さす

『役立ってるよ。記憶の補完とかに。
……てかアルゴ。キミ、キリトにだけ500コルで売りつけてるだろ』

「お前らフロントランナーが買った金で無料版の増刷してるんだヨ。
無料なのはキミくらいだ【影】」

『【影】?僕のこと?』

聞き慣れない単語に首を傾げる

「あァ。
キミ、全身真っ黒な上にAGI優先ビルドだロ?
影しか見えないんダ。
しかも敵瞬殺だシ。
一部じゃ【影】とか【影の刃】とか言われてるゾ。
1ヶ月で通り名が付くとは流石だナ」

初耳なんですけど!?;;

「キミ、人との接し方が極端過ぎなんだヨ。
普段キー坊としか話してないだロ。
だから名前知らない連中が噂する時によく使うんダ」

『へ、へぇ……;;

けど僕、そんな噂になるようなことした覚え無いんだけど』

「あのナ、ソロで最前線に潜ってるプレイヤーが何人いると思ってるんだヨ。
全体でソロやってんのが100ちょいなんだゾ?
珍しいから大抵最前線から帰ってきた大きな集団が酒場で噂してるんダ。
だからキー坊はともかくお前は結構有名なんダ」

『え、キリトは?』

「キー坊はぱっと見普通のプレイヤーだからナ。
キミのカッコ目立つシ。
キミの噂は“神出鬼没”とか“正体不明”とかそんな言葉と一緒に聞くから、そんなヤツが有名にならないはず無いだロ」

『さいですか……;;』

なんかいろいろ初耳な情報が出てきたぞ

「ま、キー坊がいないならオイラは帰るヨ」

『なんだ、もう帰るのか?
夕飯食べていけばいいのに』

「う〜ン……
ありがたいけど、また今度にするヨ。
まだ仕事があるからナ」

『そうか。残念だな』

「夜装備に変えたいから隣の部屋借りるゾ」

『ああ』

こりゃ、今夜の夕飯は1人かな?


















……って

『(あれ、アルゴ今なんて……)』

そう思った瞬間だった

「きゃああぁあぁあぁぁああああ!!」

「うわああぁあぁあぁぁあああア!?」

隣の部屋────風呂場から叫び声と共に人が飛び出してきた。

《迷宮区》で出会った彼女だ

「お、驚いたナ。
まさか【影】が風呂場に女を隠してるとハ;;」

断じて違うぞ

『頼むからそんな情報流すなよ!?』

「どうしよっかなァ〜♪」

楽しんでるだろお前!!

「なんでわたしが入ってるのに違う人通すの!?///
貴方バカなの!?
ていうかバカでしょ!!///」

顔を真っ赤にして僕に詰め寄る細剣使いに僕は

『いいから服着なよ……;;』

と、半ば呆れた声で言った
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