刀神

□伍ノ太刀
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片っ端からセンチネルを狩りまくっている時、突然大きな咆哮が響き渡った

〔グオォオオオオォォォォオオ!!〕

『!』

驚いてそちらに視線を向けるとコボルドロードが斧とバックラーを投げ捨てたところだった。

いつの間にかHPゲージの最後の1段が赤くなっている

『…バーサーク状態のボス、か』

本音を言えば八つ当たりで物っ凄い斬りたいが、ここで飛び込んでもあとが面倒だ。

ここは自制しておくか……

「みんな退がれ!オレが出る!!」

『は?』

そう言って前に出てきたのはリーダーのディアベルだった。

何故ここで1人で出てくるのか…

「ここは全員で包囲するのがセオリーのハズ…」

キリトも同じことを思ったのだろう。
小さく呟く声が聞こえたが、それは他の誰にも聞こえていない。

ディアベルが剣を構えてソードスキルを発動させた時、コボルドロードが腰から剣を抜いた。

それを見た瞬間、僕は目を見開いた

『!キリ…ト…』

「え?」

キリトが訝しむような目を向けてくるが僕はマトモに返答すらできない

『ちが…違う…アレは…あの剣は…っ』

僕らの位置からはシルエットしか見えない。

だが、あの細さと輝きで分かる。

アレは《湾刀》じゃない。

アレは…あの剣は…

「《湾刀》じゃなくて《野太刀》…!!」

キリトも気付いたらしく、本隊に向かって同時に大声で叫ぶ

『待て!』

「ダメだっ!

全力で、後ろに跳べっ!!」

しかし、その声が届くよりも先にコボルドロードが動いた。

素早い動きでディアベルを翻弄し、頭上からの縦斬りが彼を直撃する

「うああっ!」

ディアベルが吹っ飛ぶが、コボルドロードの攻撃はそれで終わりではなかった。

空中で体を捻り、武器に威力を溜め、それを一気に開放した、カタナ専用重範囲攻撃《旋車(ツムジグルマ)》が再度ディアベルを直撃。

彼は20m以上吹っ飛んだ

「ディアベル!」

『行けキリト!』

センチネルの相手を代わりキリトをディアベルの元に向かわせる

「なんで、あんな無茶を…」

隣でアスナが小さく呟く。

“何故”か…

それはきっと、“ラストアタックボーナスによるレアアイテム狙い”だろう。
LAボーナスによるドロップアイテムは大抵がユニーク品だ。
それで戦力を大幅に増強し、これからも攻略組の先頭に立つつもりだったのかもしれない。

そう考えながらセンチネルを爆散させた時、後ろからそれより大きな破砕音が聞こえた。
僕らの後ろにセンチネルはいない。
だから今のはディアベルのアバターが消滅した音だ。

後ろを振り返ると、キリトが一瞬何かを思い出すような素振りをした


















“LAボーナス狙い”…

それで1つ分かることがある

「(ディアベル…アンタも、β上がりだったんだな。

アンタは元βテスターなのに、他のプレイヤーを見捨てず、みんなを率いて立派に戦った。

俺にできなかったことを、アンタはやろうとしたんだ…!)」

ギュッと拳を握りしめ、コボルドロードを睨みつける。

ディアベルの最期の言葉

“頼む…ボスを倒してくれ…

みんなのために…”

このレイドのリーダーはアンタだ、ディアベル。
そのアンタの最期の言葉が“撤退”じゃなく“血戦”だと言うのなら、メンバーである俺は…


ザッ

「!」

『(ニッ)付き合うよ』

「わたしも」

いつの間にか、パーティーメンバーの2人が俺の両隣に立っていた。

“仕方ない”って感じにヘラッと笑うリグと、真っ直ぐな目でコボルドロードを見据えるアスナが

「…ああ、頼む」

その言葉を合図に3人で駆け出す

「手順はセンチネルと同じだ!」

「分かった」

『りょーかい』

ボス戦の最終決戦で、しかもレイドリーダーの死亡直後だというのに全く狼狽える様子の無い2人に呆れと頼もしさの入り交じった苦笑がこぼれた



















キリトを前衛に走る前方でコボルドロードが両手で握っていた《野太刀》から左手を離し、左の腰だめに構えようとしていた。

あのモーションはたしか─────

『!キリトッ!!』

「………ッ!」

キリトが息を詰めながらソードスキルを発動させた。

右手の剣を左腰に据え、体を転倒寸前まで前に倒し右足を全力で踏み切った。
キリトの片手剣基本突進技《レイジスパイク》が、コボルドロードのカタナ直線遠距離技《辻風》を弾き、そこに僕とアスナが飛び込む。





……が、コボルドロードの目がギラッと怪しく光った

「!アスナ!リグッ!!」

『「!!」』

キリトの声に反応し、左右に飛び退く。

剣は僕とアスナの丁度真ん中に振り下ろされた。

ギリギリのタイミングだったため、風圧ではためいたアスナのフーデットケープと僕のローブに攻撃が掠め、ポリゴンへとその姿を変えた。

ポリゴンの光の中、僕とアスナはコボルドロードに突き技を叩き込んだ。

激しく吹っ飛んだコボルドロードを見ながら溜息を1つこぼす

『あ〜あ…上着無くなっちゃった』

「そうね。
どうでもいいけど、見せ物みたいになるのはゴメンだわ」

『ははっ同感』

肩に剣を担ぎながら笑う。

女性プレイヤーが圧倒的に少ないSAOでは女性プレイヤーというだけである種の希少価値がつく。

どっちか分かりづらい(というかむしろ男の)僕はともかくアスナはどう見たって美少女だ。

だからこんな所で顔を曝したことで物珍しそうに見られるのが面倒で嫌だ、とアスナは言っているのだ。



『まあべつに僕はマフラーあればいいんだけど…ん?』

ふとキリトを見ると、口を開けてポカンとしていた。

……そんな状況じゃないんですが;;


『キリトさーん…?;;』

「!あ、次来るぞ!」

我に返ったキリトが詰めてきて、ボスの攻撃を連続で弾き続ける。




















だが……

「しま……っ」

一瞬、キリトの集中力が途切れた。

上段と読んでいた斬撃が軌道をグルリと変え、下から斬り上げてキリトを吹き飛ばす。

同じモーションから上下ランダムに発動する技《幻月》だ。

吹っ飛んだキリトは後ろにいたアスナにぶつかり、その衝撃で2人とも倒れた。

キリトのHPが3割以上減少する


『キリトッ!アスナッ!』


「う…っ」

フッ

「「!!」」

倒れた2人に落ちる影。

コボルドロードが追撃に行ったのだ

「く……っ」

『ッ!!』


“間に合わない”……

そう思った……

























「うぉらあっ!!」

ガキィイン!

『!』

僕が飛び込もうとした直前、太い雄叫びと共に巨大な武器が緑色の光芒を引きながら打ち込まれる。

両手斧系スキル《ワールウインド》、繰り出したのはエギルだった。

それに続くように他の部隊の者もコボルドロードに向かっていく

「回復するまで、俺たちが支えるぜ!」

「アンタ…」

『キリト、アスナ!大丈夫!?』

「ああ」

「大丈夫」

『よかった…ッ』

2人が無事だったことに、心底ホッとする。



だって、僕は……





また、守れないのかと思ったから…


















「「うああっ!!」」

『「「!!」」』

上がった悲鳴に意識を戦いに向けると、跳び上がったコボルドロードがソードスキルを発動させているところだった。

空中で限界まで体を捻り、力を溜めるそのモーションは…

『(《旋車》…ッ!)危ない!!』

咄嗟に剣を握り直しながら飛び出し、剣を左肩に担ぐように構え左足で思い切り床を蹴る。

本来有り得ない速度が背中を叩き、体が斜め上空へと砲弾のように飛び出す。

片手剣突進技《ソニックリープ》だ。

《レイジスパイク》より射程は短いが、軌道を上空へも向けることができる。

左手の剣が鮮やかな黄緑色に包まれた。

行く手では、ジャンプの頂点に達したコボルドロードのカタナが深紅の輝きを生もうとしている。

タイミングも距離も射程もギリギリかもしれない





『(くっそ…










もう嫌なんだよ、目の前で人が死ぬのとか…








大切な人たちを守れないのとか…ッ











だから…ッ)


届…けェ─────────────────ッ!!!!』






叫びながら限界まで左腕を伸ばして剣を振った。

剣は《旋車》発動直前のコボルドロードを捉え、ザシュッという斬撃音とともに斬り裂いた。

転がりながら着地した僕はそのまま走る

『キリト!アスナ!』

「分かった!」

「了解!」

打てば響く2人の声に思わず口元が緩みそうになるがそれを堪えコボルドロードに斬りかかる。

僕が《野太刀》を弾き、アスナが渾身の《リニアー》を左脇腹に叩き込む。

僅かに遅れ、青い光芒を纏ったキリトの剣がコボルドロードの右肩口から腹までを斬り、すぐに手首を返して先の斬撃と合わせてV字の軌跡を描いて左肩口から抜けた。

片手剣二連撃技《バーチカル・アーク》だ。

斬り裂かれたコボルドロードは叫び声とともに爆散し、ポリゴンの破片へと姿を変えた……
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