刀神

□質ノ太刀
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やがて、簡素な白い短衣(チュニック)と膝上丈のスカートに着替えたアスナが奥の部屋から現れた。
着替えと言っても実際に脱いだり着たりの動作があるわけではなく、ステータスウィンドウの装備フィギュアを操作するだけなのだが、着衣変更の数秒間は下着姿の表示になってしまうため、豪胆な野郎プレイヤーならいざ知らず女性は人前で着替え操作をしたりすることはない。

え、僕?
僕はほら、中身女性じゃないしさ←
まあそれ知らないキリトには時々注意されるんだけど。
てか部屋着の上にローブ羽織ってるだけだからどこででも着替えられるし。
肉体は3Dオブジェクトのデータにすぎないとは言っても、二年も過ごせばそんな認識は薄れる。
だから、今キリトがアスナの惜しげも無く剥き出しにされた手足に自然と目が行ってしまうのも仕方ないだろう。

たぶんいろいろキリトは葛藤してるんだろうなぁ…

そんな彼の葛藤を知る由もないアスナはキリトにじろっと視線を投げ、言った。

「いつまでそんな格好してるのよ。

……っていうかリグ、貴女ここで着替えたの?」

『え、うん』

「相変わらずそういうとこは大雑把というか適当というか…;;」

『今更だよ』

「はぁ…わたし、いろいろ心配だよ…」

『なんで僕着替えくらいで心配されてるの』

「リグじゃなくてキリトくんが心配なのよ」

「Σうぐっ…;;

お、お察しありがとうございます…;;」

「ああ、やっぱり」

『?』

何の話だ、いったい…


























キリトがウィンドウから取り出した《ラグー・ラビットの肉》を陶製のポットに置くと、アスナは神妙な面持ちでそれを手に取り、中を覗き込んだ。

「これが伝説のS級食材かー。
……で、どんな料理にする?」

「シェ、シェフお任せコースで頼む」

「それがいちばん困るんだけど…」

『あ、じゃあ僕シチュー食べたい』

「なるほど、煮込み(ラグー)って言うくらいだものね。
じゃあそうしましょうか。

ちなみに訊くけどキリトくん」

「は?」

「キミ料理スキルは?」

「ぜ、ゼロだけど…」

「じゃ、テキトーに待ってて。

リグは手伝ってね?」

『えー……拒否権は?』

「ナシ」

『ですよねー。

分かったよ、付け合わせ作ればいい?』

「うん、よろしく♪

食材は自由に使っていいから」

『ん』

うへぇ……面倒くさい。

アスナがシチューを作っている間に僕は彼女がストックしている食材で付け合せを作っていく。

『(こっちでの料理簡略化されてるのに僕の手伝い要るの…?)』

なんて考えながら手を動かす。

5分で食卓は整った。

やっぱり簡略化されすぎててつまんないな。




















食卓の準備ができたので僕とキリトはアスナと向かい合わせで席に着いた。
眼前の大皿には湯気を上げるブラウンシチューがたっぷりと盛り付けられ、鼻腔を刺激する芳香を伴った蒸気が立ち上っている。

照りのある濃密なソースに覆われた大ぶりな肉がごろごろと転がり、クリームの白い筋が描くマーブル模様が実に魅惑的だ。

キリトとアスナはいただきますを言うのももどかしいと言うようにスプーンを取り、SAO内で存在し得る最上級の食べ物であるそれをあんぐりと頬張っていた。

…ちゃんといただきますは言おう?

なんて思いながらシチューを食べる。

うん、おいしい(*´〜`*)
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