刀神

□捌ノ太刀
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「蓮…?」


夜中、人の動く気配で目を覚ました俺は蓮がいないことに気付いた。

フレンドリストを開き追跡すると宿のすぐ近くにいた。
まだ部屋を出てすぐらしい。

「………」

俺は少しだけ考えたがすぐに部屋を飛び出した。
もちろん蓮を追うためだ。
普段ならお互い自由に動いていることもあり彼女のあとをつけるようなマネはしない。

だが、今は夜中も夜中。
夜が活動時間でもない彼女がこんな時間に宿を出て行くのはやはり気になる。
それに、アイツは昔から目を離すと危なっかしい。


















転移門広場前で彼女を視界に捉えた俺は彼女を追って聞こえた階層に転移した。



そこは前線より少し下の階層で、俺たちのレベルなら問題の無い敵ばかりだが特に何があるというわけでもない。
ますます"何故ここに?"という疑問が深まる。


隠蔽して追うと、彼女はフィールドにある森で木の根本に蹲っていた。
敵のレベルが低く、尚且つ近くに敵の気配が無いからと言ってのんびりし過ぎだろう。

本当は出ていって声をかけ、何をしているのか訊ねたかったのだが、できなかった。
明確な理由があるわけではない。
ただ、彼女から漂う儚げな雰囲気に声をかけることを俺は躊躇った。


どれくらいそうしていたのか。
少し経った時、声が聞こえてきた。
小さな声だったが他に音のしないここでは充分に聞こえた。
蓮の声だ。

『…もう二度と失くさない

もう離さないように

この夏の向こうの 秋、冬、春にも

再び訪れる ひぐらしのなく頃も

何時までも こうして過ごしていたいね……』

それは歌だった。
俺の知らない歌だが、蓮の歌い方のせいか歌詞のせいか、とても切ない曲に聞こえた。
俺がそんなことを考えている間も蓮は歌詞を紡いでいく。

『…いつかどこかの遠い世界で救えなかった

あなたとも一緒に手を繋ぎたいよ

誰かが居なくていい世界なんていらない

みんなが居て当たり前の日々へ行こう…』


そこで蓮の声が途切れた。
歌に聴き入っていた俺は“終わったのか?”、“もう少し聴きたい”などと思いながら蓮を見てギョッとした。
彼女愛用のマフラーに隠れてよく見えないが、頬に一筋の雫が流れているように見えた。


「(蓮…泣いて…?)」


アイツの涙なんて数えるほども見たことがない俺は困惑するしかなかった。




蓮は座り込み、俯いたまま自分の両手を見ていた。

『やっとみんなで幸せになれると思ったのに……

みんなと一緒にいられると、思ってたのに……』


そう呟いた蓮は見ていた両手もパタンと下ろしてさらに言葉を続ける。


『ボクは何もできなくて……


未だに1人……


こんな、ところで……っ!』



蓮の声がだんだんと本格的に嗚咽混じりになってくる。

普段のアイツは、誰か……例え俺やアスナや、アイツの兄貴なんかと話しててもあそこまで素の感情を表したりしない。
人の心の機微に鈍感な俺でも偽ったり、隠したりしているのが分かるくらいだった。
そんな蓮だから、今本気で泣いているんだと思った。
俺の知らない何かに、本気で苦しんでいるんだと。
そう思うと、俺は自然に手を握り締めていた。

「(なんでだよ……

なんで何も言ってくれないんだよ……

そんなつらいなら、話してくれたっていいじゃないか……

なぁ、蓮……!!)」


そんな自分勝手な思いを募らせる俺。


そんなこと知らない蓮の静かな慟哭が聞こえてくる。













『会いたいよ……みんな……っ』











それは初めて聞く、蓮の切なる願いだった……
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