Doomsday clock

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 いつもと何ら変わらない刑務所の日々

朝起きて、食事をして、
お気に入りの雑誌を読んで、
落ち着きなくコサックを踊る同居人を目の端に捕らえて、
看守をボコって、
そうしてまた眠りに就く

 変わり映えしないつまらない日々

それでも、なんら不満はなかった
偉そうに踏ん反り返っている看守も、少し凄めば従うし、
処刑人の手伝いをすれば金も手に入る

別段この刑務所を出てやりたい事もないから、敢えて今の状況に甘んじてる

 キレネンコはそんな事を考えながら雑誌に向けていた視線を扉へ向けた

「………」
「キレネンコさん?」

 彼の意識が珍しく雑誌から逸れたのを感じたのか、プーチンは不思議そうにキレネンコを見、そして彼の視線を辿った

「ほら、さっさと入れ」

 間を置かず開かれた扉

そこから飛び込んできたのは白と黒

「え…?」

 一瞬の出来事に状況を把握しかねているプーチンに、カンシュコフはチラリと視線を向けた後に短く「今日から仲間入りだ」と伝えると早々に居なくなってしまった

 戸惑うプーチンを他所に、キレネンコは突き飛ばされるように部屋へと入ってきたものを見つめる

 日焼けのしていない真っ白な肌
黒檀の長い髪に、モノクロの囚人服
その両手は後ろ手に手錠で繋がれ、目隠しと猿轡までされていた
キレネンコが、かすかに眉根を寄せる
この少女は…

「……看守」

 ぼそりと、そう呟くだけで十分で、
カンシュコフはいつもとは違った様子で小窓を開けた

「……」

 無言でこれは何なんだと問う

「…昨日終身刑を言い渡された女だ」

 キレネンコは立ち上がり少女の傍らに膝をつくと、くん…と鼻を鳴らした

 女特有の甘い匂いに微かに混じった男の匂い、それだけで悟った
この少女がどういった意味合いで刑務所に入り、どういう理由で終身刑なんて重い罪を告げられたのか

「あいつらの玩具か…」

 ろくに抵抗や発言も許されずに、ただ欲の捌け口として意味もなく逮捕され、逃げられないように終身刑だなんて大層な刑を突きつけられた

 それがどうして自分の部屋に連れてこられたのかは知らないが…
なんだか胸糞悪かった

「おい…」

 思い切りカンシュコフに蹴りを入れ、視線だけで少女を指す

「手錠の鍵、寄越せよ」

 いくら何でも、こんな状態の人間を部屋において良い気分などしない
 プーチンが目隠しと猿轡を外すのを目視したカンシュコフは、渋々鍵を放り込んだ

「悪いが寝床は用意できないからな」

 そう言って今度こそ、カンシュコフは姿を消した


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