”L”Game

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"L"Game


「痛いって言ってるでしょ?」

 今おもえば、あの時のあの出会いは運命だったのかもしれない
”運命”だなんて言葉、きっと現実主義な相方が聞いたら腹を抱えて笑うに違いないけれど
仕方ない…自分は運命とかを信じてしまう質だし、そう思ってしまうのだから…

「子どもがこんな時間に危ないって言ってるだけだよ。君こそ意味わかってる?」
「こ…こど、……」

 相方のボリスは非番だし…と、重い腰を上げて市の中心街の、いわゆる歓楽街をパトロールした時
 酒場の入口で携帯を弄る少女を見つけて、正直仕事を忘れて口説こうと思ったのが間違いだった
よく手入れのされた髪を風に揺らして、つまらなそうに画面を見つめる彼女は見た目の年齢の割にいい体をしていたのだ…
さらに言えば、なにより可愛かった

ただし…童顔で、どうみても未成年だ

 ナンパ…という言葉をなんとか振り切って、民警として声をかけた
…かけたまではよかった

「誰が子どもですって?」

 眉を吊り上げた彼女は、そう言ってグイッと顔を近づけてきた
なるほど、歓楽街を縄張りとする女ほどではないが確かに化粧をして、ほのかに香水の甘い香りもした

「よく見てごらんなさいよ。私の、どこが、子どもですって?…コプチェフ」
「?!…なん」

 自分の名前を呼ばれて驚いた
どうして?何故わかった…
そう問いかけるより先に彼女が続けた

「ミリツィア0532、相方はボリス…だったわよね?」

 なんでも知ってるのよ?と笑う彼女はどこまでも無邪気で、
本当に子どものようだった

「君は…情報屋……?」
「そ。どんな些細な情報でもわかる事ならなんでも答えるわ。相手が誰であろうと、ね」
「逃亡中の囚人の居場所」

 どうしてだろうか、口をついて出たのはそんな言葉だった
愛用の煙草を一本取り出し、知っているなら教えろと促す

「…人によっては高いわよ?」
「交渉次第って事か?」

 民警が情報屋に頼るなんて…と、笑う彼女は、煙草の箱をひったくった
中身を数えながら何か考えているようで、おそらくは報酬額を計算していると思われる

「毎日、」
「ん?」
「毎日お仕事なんて大変ね。こんな時間まで」

 不意に話を向けられ、燻らせていた煙草を咄嗟に灰皿へ押しつけてしまった
それが一体なにを意味するのか、理解するのに時間がかかった

「…パトロールが終ったら、明後日まで休みだけど」
「そう、素敵な休日になるといいわね?」

 向けられた笑顔は、童顔だけどどこか妖艶で…
後ろ髪を引かれたが、返された煙草を受け取り何事もなかったかのようにその場を離れた

 その煙草の箱に…
彼女の連絡先を忍ばせたまま……



「また後で…」


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