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捜査室へ戻ると珍しく全員揃っていた。ふたりで『ただいま戻りました』と入っていくと、口々に『お帰りー』と声がかかる。
「はい、お帰り。お疲れさま。一柳、チビ助、よくやったわね」
「よう、お疲れ。なんや、お嬢、凄い汗やな。早よう着替えな風邪引いてしまうで」
藤守の言う通り、彼女は汗びっしょりだ。明智さんと如月もやってくる。
「大丈夫か? チビ。顔色も悪いな」
「あれー本当だ。朝より悪くなってるぞ」
「チビ、着替えて少しソファーで横になったら?」
小笠原も、パソコンの前から離れ、心配げに声を掛ける。その声に室長も立って来て彼女を覗き込む。
「本当だ。アンタ、つらそうね。チビ助、大丈夫?」
ソファーを振り向き、小野瀬さんに怒鳴るように言う。
「おい、小野瀬。そこ開けろ。だいたい、お前はうちのソファーで寝るんじゃねえ! 」
「あー、はいはい。おチビちゃん、きみ、本当に顔色が悪いね。早く横になって。なんなら、添い寝してあげるよ」
「小野瀬さん! セクハラですよ!」
彼女に代わり、如月が文句を言う。
「なまえ、とりあえず早く着替えろ」
そう言って後ろの彼女を振り向くと、赤かった顔が血の気を失い青白くなっていた。その変化にぎょっとする。
「っ!! なまえ、大丈夫か?」
声を掛け手を伸ばした時、彼女の身体がぐらりと傾き崩れた。オレはとっさに抱き抱える。彼女の名前を呼ぶが、意識がない。青白い頬に触れると、ひんやりとしていた。体温があまりに低く、手にぬくもりが伝わって来ない。途端に不安が押し寄せた。このまま、彼女を失ってしまいそうな気持ちに捕らわれ、激しく動揺した。必死に、なまえの名を呼びながらその身体を揺らした。
「……ぉ……い……おいっ! 一柳っ! しっかりしろ!」
室長の声で我に帰る。
「意識がないのか? 呼吸は?」
「意識、ありません。呼吸は──あります」
何とか答えると小野瀬さんが言う。
「とりあえずソファーに寝かせよう。ネクタイとかゆるめて。身体を楽にした方が良いい」
ソファーに降ろしネクタイとボタンを外し、ベルトをゆるめようと腹に触れると洋服が濡れていた。はっとしてシャツをめくると、バスタオルの胴巻きが絞れそうな位に汗で濡れていた。後ろから見ていた室長が驚く。
「あ? なんだ、それ? 腹巻き? この気温でそんなもんしてたのか?」
「おい、もの凄い汗じゃないか! 着替えさせないと。体温が下がる一方だ」
明智さんも汗に気づき驚く。小野瀬さんが、肩を叩きながら声を掛ける。
「なまえ君、なまえ君。──まだ意識が戻らないな」
そう言って彼女の目をアッカンベーをするように見た。
「真っ白だ。どうやら貧血も起こしてるようだよ」
「それと、熱中症かも。経口補水液を、早く飲ませた方が良い」
「経口補水液なんて庁内にはねえぞ」
「室長。ドラッグストア、行って来ます」
「いいや、待って藤守。外のドラッグストアまで行ってたら時間が掛かるよ。急いだ方が良い。クエン酸入りのスポーツドリンクなら自販機にあったよね。確か、それに塩分を加えた物でも代用出来るはずだよ」
小笠原の言葉に室長の指示が飛ぶ。
「藤守! クエン酸入りのスポーツドリンク買って来い! 明智、給湯室に塩あったら持って来い!」