藤守が、すぐに戻ってくる。
「買って来ました!」
「明智、塩混ぜて振っとけ。後はコイツ起こさないと。おい、真山、おいっ!」
室長が抱き起し、バチンバチンと頬を張る。
「っ!! ちょっ、ちょっと!」
でかい手で強く叩かれるのを見て、思わず室長から彼女を奪い頭を守るように抱えた。
「なんだ! 昴!」
「なんだ──って……。でかい手でそんなに思いっ切り、バチバチと叩かないで下さいよっ!」
「しょーがねえだろうが。目、覚まさせねえといけねえんだからっ!」
強く抗議したオレに、室長も怒鳴り返してくる。
「ボス、それは分かります。分かりますが、それにしたって……」
明智さんが言うのに、室長が不満げに反応する。
「あ゛あ?」
小野瀬さんが見かね、さとすように室長に言う。
「少し落ち着けよ。穂積。気持ちは分かるけど。お前ねぇ、なまえ君は女の子で男より肌が柔らかく出来てるんだからさ。そんなに乱暴にしたら、後で真っ赤かに腫れちゃうよ」
「じゃあ、どうすんだっ!!」
室長がイライラと声を荒げる。
「……んー」
怒鳴り声で目を覚ましたのか、彼女から声がもれる。
「なまえ? 気がついたのか! なまえ、おい、なまえ!」
「……ん、す……ば、る……」
「チビ助、しっかりしろ! 昴、これ飲ませろ!」
「なまえ、これ飲め」
腕の中の彼女の身体をもう少し起こし、ペットボトルを持たそうとした。だが、彼女はぐったりとしてペットボトルが持てなかった。
「……ぅご……な……ぃ……」
消えそうな微かな声で、途切れ途切れに彼女が言う。オレは強烈に不安になり、ゾッとした。
「真山? 身体動かないのか? おい!」
「…………」
室長の呼び掛けに、唇がわずかに動くが声が出てない。
「お、おいっ! なまえ!」
焦り、オレは必死に呼び掛けた。
「……チ、カ……ラ、で……なぃ……」
意識が朦朧としているのか、目が泳ぎ焦点も合わないようだった。彼女の口元にボトルを当てどうにか飲ませようとするが、うまく飲み込めないのか口端から溢してしまう。
「チビ……飲めないのか? だ、大丈夫だよね……?」
如月の不安な声が、耳に届く。
(大丈夫? 大丈夫ってなんだ? ……死ぬ、って意味か?)
混乱する頭で必死に考える。[死]という言葉がオレの頭の中で、ぐるぐると渦巻く。
「ばかやろう! こんな時に縁起でもねえ事言うんじゃねえ! 大丈夫に決まってんだろっ!」
室長が怒鳴るが、その声にはやはり焦りの色が含まれていた。つられるようにオレの中の焦りと不安が、頂点まで高まった。