あなたといたい。(21。〜 )

□35。
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 小野瀬さんが、納得出来ない顔で唸った。

「うーん、穂積が怪しい押し売り役で藤守くんが泥棒。明智君と昴くんがお巡りさん役か。で? 小笠原がなんでお父さん役? そもそも俺は応援なんだから、小笠原、お前のちょい出の役に代わってくれよ」
「やだ」
「じゃあ、明智君。きみでもいいから代わってよ」
「そ、それは、無理です」
「だめよ。小野瀬。明智はセリフのない役にわざわざしたんだからね」
 明智さんは、演技が苦手だ。事件の状況再現などをして、検証することがたまにある。その時は悲惨だ。棒読みでかちかちになり、ひどいときは詰まって言葉が出て来ない。

「きーぃ! なんだよ、みんな。いいじゃん! 僕と藤守さんに比べりゃみんな、まともだ。いい年してこんな幼稚園児だなんてぇー」
「そうや、そうや。でも、お嬢。考えようによったら俺よりはええで? 俺なんて泥棒メイクやぞ? なんでや? こないな泥棒、今時おらんやろう」
 藤守は、気の毒に一本まゆに口の周りをまーるく囲んで、昔のコントに出てくる泥棒みたいな格好だ。もし、自分だったらぜってーやれない。なにがなんでも辞退する。それを考えると、藤守は偉いと思う。

「藤守。一目で泥棒って分かった方がいいの。チビ助もそう。それなら、一目で小さい子って分かるでしょう? 頑張ってよ。ふたりとも」
 そう言う室長にうるうる目で、彼女がまた嘆く。

「うぅー藤守さん。うちら最悪だねぇ。うへーん」
「そうやなー」
「あーはいはい。後で美味しいものおごるから。機嫌なおして。ね。あと少しで安全教室開始よ。頑張りましょう。ほら、チビ助。ぺろぺろキャンディ持って。あ、それ、食べてもいいわよ。頼むわよ。お父さん、頼りにしてるからね」
「うぅ……はーぁーい、了解でーぇすぅ」
 でっかいぺろぺろキャンディを受け取ってそう返事をする幼稚園児姿の彼女。そんな風に期待されちゃったら、嫌でも頑張っちゃうのが彼女だ。彼女は、出番が最初からある。薄っぺらい衣装で寒い中、出ずっぱりで大変だ。頭を撫で励ます。

「なまえ、頑張ろうな。大丈夫。本当に可愛いよ」
「うん。恥ずかしいけどお仕事だもんなー。やるしかないね。けど、昴は制服警官姿もやっぱりかっこいいね。すてきだよ」
「おっ、褒められた。ふふ、ありがとう」
「あー、またいちゃいちゃしてるー」
「きゃーおまわりさーん。変態のおじちゃんが来たー。たすけてー」
 とオレの後ろに隠れる彼女。

「えーおじちゃんって……。ショック。チビ、ひどい」
 落ち込む如月に笑いが起こり、そんな風にふざけてる内に出番になった。




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