*今回の主役は泪さま。いつもの設定はまる無視してます。お相手はチビでもあの方でもお好きに想像して下さいませ……。


── 十二月十八日。
       穂積泪編 ──


 庁内のひと気も少なくなり日中の騒がしさが、嘘のように静けさに包まれる。この捜査室も、今は俺ひとり。静まり返る室内に筆音だけが音をたてる中、黙々と目の前の仕事に没頭する。そうしていなければ残念さとともにうだうだとつまらない考えが、わき上がって来てしまいそうだった。

(そんなの、俺らしくもねえ)
 そう打ち消しても気が付けばまた思考が脳裏を掠める。あいつが絡むといつもそうだ。


 どんな日でも何もしなければ、ただのなんの変哲も無い日常の一日として埋もれてく。だからといって、なんとかしようと足掻き行動するような重大事でもガキでもない。確かに──少しばかりの期待もしなかったといえば嘘になる。 だが、所詮は[あいつならば、もしかして]と俺が勝手に思っただけのこと。それが肩すかしで終わろうと致し方ない。受け入れるだけだ。

 書き物に集中してると、ふと気配を感じ手元の書類から目を離し顔をあげた。見れば帰った筈のあいつがいた。

「ああ、お前か。どうした? 帰ったんじゃなかったのか?」
 俺の言葉に答えずにあいつは、俺の手元を覗き込むと『今夜中の急ぎ? まだ、終わらないの?』と聞いて来る。

「いや、そこまで急ぎじゃないが。俺に用事か? あ? 何んだ? 今日は何日か? ……十二月十八日だな。それがどうかしたか?」
 そう答えるとあいつは『そう 、十二月十八日。だから今夜はもうおしまい』と俺からボールペンを取り上げて『行こう』と腕を引っ張った。

「ん? 行く? どこへだ? 今夜、約束してたか?」
 なんとなしに言った ── いや、本当は拗ねた心から出た意地悪心で口にした── その言葉にあいつは少し寂しげに口元で微笑み『してない。……特別な日だからほかに約束があると悪いと思って……。約束しなかった』とポツリと言い俯いた。前から感じてはいたが。 どうやら俺には、自分以外にも別の相手がいると本気で思い込んでしまってるらしい。

(全く。どうしてそんな誤解をしちまったんだか……。そんな相手、ほかにいるはずもねえ。いたらこんな日に残業なんかするか)
「ばーか。特別な日に誘ってくれるようなそんな相手、いねえよ。いるのは、誕生日デートにも誘ってくれない冷たい恋人だけだ。おかげで、残業しかすることもないくらいだ。うん? なんだ。……冷たくねえって? ああ、冷たいんじゃなくて早とちりで、ちょっとおバカさんなだけか」
『ひどい言い方。言っとくけど、別にバカじゃないから。せっかくオシャレして来たのに。ほかに言う事ないの?』と、あいつは拗ねた。ちょっと目が潤んでる。

(可愛い……)
「言う事がないかって? 何だ、聞きたいか? はっきり言わねえと俺も言わん。 ふふ。よし。じゃあ俺の本音聞かせてやる。 ── 綺麗だ。いつもよりさらに魅力的だ。襲いたくなる」
 顎を持ち、腰が砕けるようなディープなキスであいつの唇を奪う。 唇を求め合うリップ音と、互いの息使いが身体の熱をあげて行く。 繰り返し唇を重ね吸えば、僅かに開いたあいつの唇から零れ落ちる吐息は、さらに甘く妖艶さを含み俺を煽る。ほんのつかの間、ここが職場なのも忘れてしまう。すっかりあいつに夢中になってしまい、くちづけはより濃厚さを増した。せつなげに声を漏らしてがくっと崩れ落ちそうになる。その身を支え見れば、たまらなく色っぽい顔をしている。どうにも離したくなくなった。今すぐにでも抱きたいくらいだ。愛情と独占欲と欲求が衝動となって、俺の理性を揺さぶる。まさかこの場で抱く訳にも行かない。突き上げるようにあいつを欲する心を、なんとか抑えた。抱きしめながら聞く。

「なあ、お前。俺の誕生日、祝ってくれるのか? ── そうか、ならお祝いにお前をくれないか?」
 あいつの唇がちゅっと俺の頬に触れ、普段よりも幾分ハスキーな声で『いいよ』と言った。ただそれだけのフレーズが、ゾクリと来るほど色っぽく俺の耳に囁いて行く。

「今夜、放せなくなりそうだ……」
 思わず溢れた本音に、フフと笑うあいつ。寄せた唇が、俺の耳朶を掠めるように動き『身体、だけでいいんだ? 愛は? もらってくれる? フフ……。良かった。すごく嬉しい…… 。泪、今夜はずっと一緒にいよう』と囁かれた。

「ああ。もう受け取ったから、俺のもんだ。放さねえから覚悟しとけよ。愛してる。お前だけだ……ああ? いまさら、何だよ。そんなびっくりした顔して。言っとくが、本当だぞ? 俺の本心、分からなかったのか? 全く。仕方ねえな、お前は。やっぱりちょっとおバカさんだな。あははは。怒るな、怒るな。俺が今夜、たっぷり分かるまで教えやるよ。ほら、行くぞ」
 なんの変哲も無い一日が、特別で最高な日になる予感にさっきまで奥底にくすぶってた寂しさが、消えて行くのを感じながら捜査室をあとにした ──。



── 十二月十八日。穂積泪編 ──
End.


*次のお話は── チョコよりも甘く……。──

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十二月十八日 。(穂積泪編:泪さん誕生日祝い作品)



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