short story
□蜜柑の想い、翔の想い
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「僕は…貴方の事が嫌いだ」
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「姉ちゃーん…いい加減にしないと遅刻するぞー?」
「うあああ待ってっ! あとちょっとなのー!」
「さっきから待ってるっつの…」
呆れたように黒髪の少年はため息をつく。少し先に家を出ると、そのあとすぐ茶髪の少女が彼を追いかけてきた。
その姿を見て苦笑する少年はわざと早歩きをした。…少女が怒りながら少年を追いかけてくる。
「もー! 翔のバカーッ!!」
「バカで結構。姉ちゃんよりは頭いいはずなんだけどなー」
「う…っ」
そんなやりとりをしつつも歩く2人の姿はとても微笑ましかった。
赤いランドセルを揺らして歩く少女とだらしなく黒いランドセルを背負っている少年。少年の方は名前を翔というらしい。
しかし、そんな2人を不気味な影が見つめていた。…それはとても不吉な影。
「…?」
その影には翔だけが気づいたようだ。…しかし鈍感な少女は全くもって気付かない。
翔もその影を全くもって危険だと判断しなかった。そのせいでまさかあんなことになるとはきっと思ってもいなかっただろう…。
そして今まで通り登校し、授業を受け、下校する。…しかし今日だけはいつもとちがった。
翔が、珍しく少女と一緒に帰っていないのだ。何か用事があるという。
「…さみしーな…」
そう少女が呟いていたのを知るのは、空を流れる雲と、少女の頬を優しく掠めていった風、そして赤く染まった空と夕日だけだった。
いつもと違う帰り道。それはとても寂しくて。…でも少女は歩く。石ころを蹴りながら、拳をぎゅう…っと握り締め、悲しそうに俯きながらも少女は歩く。
コツンと蹴った石が前にいた人物のかかとに当たったようだ。前を歩いていた人がゆっくりと振り返る。
「ご、ごめんなさい…」