short story

□苦しみ、悲しみ、絶望感
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「どうして邪魔するの…?」




「邪魔しないで、お願いだから…!」




「あなたを…殺したくないの…!」




そう忠告してもらったのに。
…俺は馬鹿だ。この時大人しく引いていれば殺されることもなかったはずなのに。
…姉ちゃんは本当は殺せなかったはず。体が言う事を聞かずに俺を突き抜いたようだ。


おそらく、アリスで操られていたんだろう。


…俺が殺されるくらいならいいと思った。…姉ちゃんに殺されるくらいなら、いっそ殺されたいと…。
でもその時俺は気づけなかった。その判断がどれだけ姉ちゃんを傷つけたかも。全部、全部、気づかなかった、気づけなかった…!




天国へ続く門へとたどり着く。迎えたのは金髪の髪を美しく優雅に揺らす絵に書いたような本物の天使だった。




『あら…あなたが今日ここに来る予定だった、“翔”さん?』

「…ああ」

『それじゃ、この契約書にサインして…』




その天使が差し出した羊皮紙には…どこの国の言葉だろうか。分からないがつらづらと文が綴ってあった。
翔と呼ばれた黒髪の少年は羽ペンを手に取り、署名しようとする。

…しかし、翔が羽ペンを羊皮紙につけた瞬間、まるで電流が走ったかのように手が痺れた。




『え…?』

「か…けな…?」

『…翔さん…貴方、現世に未練とか残ってたり…しますか?』

「…っ」

『図星みたいですね。…これじゃ天国に行けません』




そしてその天使は一言こう言った。




『未練のある人物に対して…1回だけなんでもして良いというチャンスを与えます』




天使が翔の眉間を透明な棒で突き刺す。…気がつくと、翔は現世に降り立っていた。
とは言っても死んでいるから誰にも見えない。

…しばらく姉を観察していることにした。




「蜜柑、行くわよ」




姉の親友が姉に声をかける。姉は何も言わず立ち上がった。
しかし姉は親友に一言先に行って欲しいと告げ、姉は親友と別れてしまった。




【姉ちゃん…?】




一体どうしたというのだろう。姉はただ外を眺めているだけ。…眺めているだけなら授業に出たほうがいいのではないのだろうか?
しかし姉はただぼんやりと外を眺めている。…途中で一回はぁ…とため息をついたが。

しばらくすると姉の瞳から涙が一筋流れ落ちた。




「…」

【姉ちゃん…?】




「…ごめんね、翔…」




その瞬間、思わず姉を抱きしめたいという衝動に駆られた。
どうしようもなく悲しくて。謝りたくて、でもどうしようもできなくて…!

ただ抱きしめてあげることしかできない自分が恥ずかしい。…けどできることはしてやりたいと思うのが弟だろ…?
姉ちゃんが苦しんでいるのなら、その苦しみを和らげる水滴になってあげたい。




苦しみという純粋な、悲しい液体を薄める“水”になりたい。




姉ちゃんを苦しめたくなかった。…なのにそう思った俺が姉ちゃんを苦しめてしまっている…!
どうして…どうしてだよ…! 俺が苦しめてちゃダメだろうが…!

自分で自分が嫌になる。…自己嫌悪だ。




「…翔…私、ダメダメなお姉ちゃんだよね…」




違う! 姉ちゃんは…姉ちゃんはただあの時操られていた、それだけだっただろ!?
姉ちゃんが悪いんじゃない、操った奴が悪いんだ…! だから姉ちゃんが謝る必要なんかない…!




「…でも、あの人には逆らえなかった…。逆らったら、翔だけじゃなくて、みんなまで殺さなければならなかったから…」




まるで俺がいることを分かっているかのように姉ちゃんはつぶやいている。
瞳には涙がたまり、何回も零れおちた。




「…でも、それも意味がなかったみたい…」
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