short story

□梅雨の季節、ひぐらしが鳴き始める頃
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6月。
まだ夏本番というわけでもないのにずいぶんと暑い。…今年の夏はきっと猛暑になるだろうということが予想できた。
とある村のとある分校の窓側に、暑さに参って溶け始めている少女が一人。…その横で同い年くらいの黒髪の少年が下敷きで少女に風を送っている。
蝉がジージーと鳴き始め、そのうち大合唱となっていった。それを聞きながらうんざりしたように少女は眉をひそめる。




「姉ちゃん、今の時期から溶けててどうするの?」

「う〜…それは言わないで」




机に突っ伏しつつも少年の方へと少女は顔を向けた。さっき少年が“姉ちゃん”と呼んだことから2人は姉弟なのだろうと想像できる。
今の時刻はまだ8時30分だ。…もう少し涼しくてもいいんじゃないかと少女は太陽を睨みつける。
そんなことをしても意味がないことは承知の上だ。すぐに机に視線を戻し、またもや突っ伏す。…それほど今の時期は暑いのだろう。




「はーい、今日は転校生が来ていますよ」




涼しげなワンピースを来たショートカットの女の先生がそう言いながら入ってくる。こんなにも暑いのに、教室が騒がしくなったせいで暑さが倍増した。
はた迷惑だ、転校生なんか。…と少女が思ったのは誰も知らないと思う。しかし少年は少女の性格を理解しているためすぐに苦笑した。
まあ少年も同じ考えだったのだが。…流石姉弟、というところか?




「それじゃ入ってきてくださいねー」




先生の言葉を合図に教室のドアが開かれる。ガラガラガラ…と扉が開かれ、入ってきた人物を少女は横目で見ていた。
猛暑のせいでクタクタの彼女に転校生が来たことで喜ぶ気力はどうやら無いようだ。代わりに低学年の子供たちがはしゃいでいる。
もうお分かりだろうが、この分校は圧倒的に人数が少ない。中学生・小学生あわせて丁度32人、ひとクラスに入ってしまうくらいだ。
そのせいなのかは分からないが、この分校は団結力が半端ない。勉強以外ならなんでも1位を取ってしまう、そんなクラスだ。

そこに全くこの分校のことを知らない転校生が3人。果たしてこの3人はついてこられるのだろうか、この分校のテンションに。




「自己紹介してくださいね」




先生の言葉で転校生3人は教卓の前へと出る。…3人のうち2人は男だ。
3人ともレベルが相当高い。クラス全体が3人に惚れ惚れする。…しかし全員ではなかったようだ。2人だけ別方向を見ている人がいた。
もちろんその2人とはさっきの溶けかけた少女こと佐倉蜜柑、そしてその双子の弟である佐倉翔だ。




「蜜柑ちゃん、ちゃんと聞きましょう?」

「ふぇ? 先生、何か言いました?」

「…いえ、いいです…」




どうやらこれはいつもの事らしい。先生も慣れてしまったようでもう何も言わなかった。
そして自己紹介が終わり、休み時間。…転校生の周りにはやはり人だかりができていた。蜜柑と翔はそんな事を気にする素振りさえ見せていないが。
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