short story
□さぁ、夜が来た
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「…ねぇ、どうして?」
茶色い髪の少女は仁王立ちで少年の前に立ちはだかった。
少女と同じ顔の黒髪の少年は少したじろぎながらもしっかりと少女を見据えている。
「…どうしてって…」
「なーんーでー! なんで連れてきてくれなかったのー!?」
「だってこれ絶対お前怖がるなって思って…」
少年の後ろには神社。そして…未確認生命体がぞろぞろと集まっていた。
その未確認生命体というのは、今の人々が言うと「妖怪」という類のもの。…少女が嫌うのも当たり前かもしれない。
少女は幽霊もお化け屋敷も大嫌いなのだ。
「…そ、それは…」
「やーっぱり怖いんだ」
「怖いけどさ…。でも仲間外れの方が嫌だよ!」
少女は少し涙目になりつつも「妖怪」の方をむいた。
妖怪の一部が少女を一斉に見る。その目線の怖さに少女は「ひぃっ」と小さく悲鳴をあげてしまった。
さらに顔が真っ青になり、涙目になっているが、強気な姿勢は崩さない。…涙目のまま少年を睨みつける。
「…はは、お前のことちょっと甘く見すぎてたよ」
「う〜…」
「でも怖いもんは怖いんだろ?」
「…そ、そうだけど…」
少女が一歩後ずさる。…その瞬間、横からカッパがいきなり現れ、少女は甲高い悲鳴をあげて少年に抱きついた。
少年が「よしよし」と少女の頭を撫でる。その様子はまるで小さい子を慰めるお兄さんのようだった。
本当は少女の方が少し年上のはずなのだが。
「…もう帰ろうよ〜…」
泣きそうになりながらも必死に少女は少年に訴えた。
しか少年は余裕そうな笑みを浮かべたままだ。…少女はさらに泣きそうになっている。
「うわ――――――――――――んッ!! 翔のバカぁ――――――――――!!」
バッチーン!!
少女はそう叫んだ瞬間少年…いや、翔に平手打ちを食らわせる。
翔の頬に生々しい赤い手形が付いた。今は翔の方が泣きそうだ。…というか痛そうだ。
「…姉ちゃん…。流石に平手打ちはないでしょ…」
「だってだってだって!! なかなか帰ろうとしてくれないんだもんっ!!!」
少女は翔の姉のようだ。ポロポロと涙を零しながらも「だってだって」とつぶやいている。
…その様子はなんとも可愛らしい。翔が少し苦笑した。
折れたようだ、とうとう。
「…仕方ないか…。それじゃあまたな、お前ら」
『はい、若!!』
「あと姉ちゃんをあまり怖がらせるなよ。姉ちゃん怖いの苦手なんだ」
『はい、お任せ下さい!!』
「…姉ちゃん、ちなみにこいつら率いるの本当は姉ちゃんの役目なんだよ?」
「へっ!?」
「冗談」
バキィッ!!
最後の最後で少女の鉄拳が翔に炸裂する。
…10秒後、翔の顔は見るも無残なことになっていたとあとで聞いた。
『ほら、夜だ。俺たちの時間がやってきた―――――――――――』
+END+