short story
□よくある風景
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「棗っ!!」
一人の少女が駆けてくる。今の季節は冬、雪が降るくらい寒い。
俺はそんな寒い中でも元気な彼女――――…佐倉蜜柑を優しく抱きとめた。
「えへへー♡」
「なんだよ」
「いつもより優しいなぁ思うたん」
「…気持ち悪いこと言うんじゃねぇ」
そう言いつつも、軽く頭を撫でてやる。すると彼女は猫のように擦り寄ってきた。
可愛らしい仕草を見るたびに感じるこの気持ちはきっと“愛しい”というものだろう―――…。
「棗、あったかい」
「ったりめーだ、こんなベタベタくっついてんだし…」
「あれ、ベタベタされるの嫌やった…?」
「そういう訳じゃない」
少し不安げに俺の瞳を覗き込む蜜柑。少し感じてしまうこの罪悪感は何なのだろうか。
これが惚れた弱み、というものなのかはわからないが、やっぱり俺はコイツには弱いようだ。
「…勝てる見込みはないな…」
「何が?」
「何でもねーよ、蜜柑」
そして彼女を優しく抱きしめる。いきなりのことで少し驚きつつも、彼女は抱きしめ返してくれた。
隙をついて彼女の首筋に唇を落とすと、彼女が真っ赤になるのが見なくても分かった。
顔を真っ赤にして怒る彼女に“愛しい”と
いう感情を抱きつつ、この幸せにしばらくは酔いしれていたい。
ああ、本当に俺は彼女にベタ惚れなんだな、と改めて実感させられた1日だった――――――――…。
+END+