short story

□鳥籠から解き放たれるその瞬間まで、私はいつまでも貴方の傍に……
1ページ/1ページ

この世界での蜜柑=楓玲、翔=翠玲となっております^^
まるで異世界だね!! いや異世界ですけども((


+鳥籠から解き放たれるその瞬間まで、私はいつまでも貴方の傍に……



「姫様。儒学の勉強のお時間でございます。……姫様?」


 そう言って部屋の扉を開けたのは女中の一人だった。その女性はとても美しく、気高そうな面持ちで、髪の色は漆黒、瞳の色も漆黒…。
 そしてその部屋に誰もいないことがわかるとその女中は真っ青になり、すぐに駆け出した。
 ……焦るのも当たり前。それは何故か? …この部屋の住人はこの広い宮殿の"姫"という存在であるからだ。


「姫様っ!! 今度は何をしていらっしゃるんです!? そんな格好で…」
「見てわかるでしょう? 弓よ」
「いやいやっ! あなたのような方が弓など…!!」


 ようやくその"姫"を見つけたようで、女中は慌てて呼び戻そうとするが、今その姫様は弓に夢中になってしまっている。
 あまり無理矢理に連れ戻すと、後でいろいろ文句を言われてしまうため、飽きるまでその女中は待っていることにしたらしい。
 ヒュッ、と空を切る音がして、次の瞬間的の真ん中に矢が突き刺さっていた。それを見て後ろの指導者らしき人が拍手を送る。


「姫さんは結構いい線いってるね。運動神経いいでしょ?」
「もちろんです。運動神経悪かったらここにいません。あなたが一番分かっているんじゃなくて? 翠玲」
「へいへい。楓玲姉さんのことは誰よりもわかってますって。そこにいる姉さんに仕えている女中よりもな」


 そう言って二人は笑った。翠玲、楓玲はともに王族の血を引いている唯一の存在だ。しかし二人の扱いはまるで別格。
 弟の翠玲は宮殿の雑用係として生活し、楓玲は今までどおり"姫様"という特別扱いを受けているのだ。
 その理由は定かではないが、楓玲はこの待遇をとても嫌がっていて、どうしたらいいのかといつも翠玲と話しているらしい。


「翠玲、休憩は終わりだ!! さっさと戻って作業の手伝いを始めろ!!」
「…はい」
「……翠玲…」


 仕事場に戻っていく翠玲を楓玲はさみしそうに見つめていた。それを知るのはきっとそばにいた女中だけだろう…。
 同じ母親から生まれた自分たちなのに、どうしてこんなに扱いが違うのか……。楓玲にとってこんな辛いことはない。
 小さい頃引き離され、遊ぶことさえも許されず、面会も許されることがなかった幼い日々。10になってようやく再会することができたのに。


「たった5年で変わっちゃうものなんですかね…」
「人は必ずしも変わりますよ、姫様。変わるのを恐れていては前には進めません。それをお忘れなく…」
「…分かってますよ。こういうことはあなたにしか言えないけど……やっぱり嫌なんです。天と地ほどの差があるこの待遇が」


 女中はにこりと楓玲の方を向いて微笑んだ。そして優しく、祈るように楓玲の手を自分の手で包み込む。
 驚いたように楓玲は女中の顔を凝視した。しかし女中は微笑むだけで何も言わない。
 ―――――翠玲は、変わってしまった。それは楓玲がよく分かっていること。この引き離されていた5年の間に翠玲は……。


「どうしても私は翠玲の力になりたいのです。あの子を守れるくらいの大きな力が欲しい…。それが手に入るのなら」
「……………姫様」
「分かってます。無理だってことは。…でも、もしも本当にその力が手に入るのなら、私は自らの命を捨てることだって出来ます」


 無理だって分かっていても、どうしても救いたい。あの哀れな翠玲を、どうか自由にしてあげて欲しい。
 願うことも許されないのですか? …ううん、きっと許されるはず。私たちは全員が"人"という立場にあるのですから。
 もしも、…もしも願いが叶うなら。―――――どうか翠玲を、この"宮殿"という名の鳥籠から放ってあげてほしいのです。


「翠玲を鳥に例えるなら、この宮殿は鳥籠といったところです。鳥籠から解き放ってあげたい…そう思うのも駄目なのですか…?」
「…いいえ、きっと思うだけなら許されるはずですよ。人間は誰しも平等なのですから」
「私は…強くなりたいです。翠玲を守れるくらい、あの子より強く…。だから私は勉学よりも武術の体得を優先するのです」


 それを聞き、女中は悲しそうに微笑んだ。それに気付かずに楓玲は矢を引く。空を切る音がして、的に矢が突き刺さる。
 この悲しい双子の物語はまだ始まったばかり。苦しむ弟と、それを救いたいと思う姉。天と地ほどの差がある待遇。
 ……楓玲が翠玲とともに国を動かすのは、それから6年後のお話―――――……。



+END(続編は出る。おそらく)+←だって書きたいから((連載にしろや

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ