short story
□生きていてくれて、ありがとう。目を覚ましてくれて、嬉しかったよ
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―――――抱きしめられる、感覚を覚えた。
目を覚ますと、周りは白ばかりだった。天井も、カーテンも、ベッドも、全部全部白白白。
ぼんやりとした意識の中、まだ私は生きていたのかと自分で思ってしまった。死んでもおかしくないくらいの衝撃だったのだから。
そう、私は先日交通事故にあった。今日が何日だかわからないから何日前に起こったのかはわからないけれど。
「蜜柑ちゃん、よかった…っ」
看護師さんから漏れた、その一言。看護師さんの表情はとても安堵していて、…ものすごく安心しきったようなものだった。
そして、次に部屋に駆け込んできたのは、私の担当の先生と―――――両親、そして双子の弟の翔の3人だった。
お父さんは号泣しながら、お母さんは目に涙を浮かべながら、私の目が覚めたことを喜んでくれた。
「姉さん、怪我が酷くなくてよかったね。痛みがなくなったら普通に歩けるってさ」
その話を聞いた瞬間、安堵した。もし、歩けなくなったりしたらどうしようという一抹の不安が、少女の中にはまだ少し残っていたのだ。
―――――死ななくてよかった。生きていて良かった。 ――――――歩けるって、幸せだなあ
「…そろそろ、彼も来るんじゃないかな?」
翔のからかうような表情を見て、少女はすべてを悟る。そして、一旦両親は飲み物を買いに、翔もそれの手伝いに1階へと降りていってしまう。
少女の病室は7階。戻ってくるには結構な時間を必要とするだろう。少女はその間、自分の状況を理解しようと頭を回した。
普通病棟…ということは、私の怪我は殆ど治りかけているということ。―――――私はそんなにも長く眠っていたのか。
「眠りすぎだよなぁ…」
すると、病室の扉が音もなく開いた。振り向くと、そこにいたのは漆黒の髪に紅い瞳をした少年―――――。
少女の姿を一目見るや、傍に駆け寄り、―――――彼女を抱きしめる。その腕はかすかに震えていた。
ああ、私はこの人までもを心配させていたんだ。……そう思うとやるせない気持ちになってくる。少女は少年の背中に腕を回した。
「もう、大丈夫だから。―――――どこにも行ったりしないから」
―――――この言葉を聞くと、少年はさらに強く少女を抱きしめた。