地獄の姫が見た江戸

□第1話
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「やっと着いた……」

江戸の駅に降り立ち、及川刹那(おいかわせつな)は呟いた。

「久しぶりだな、江戸(ここ)に来るの」

駅を出て、刹那は紙切れを出して見る。

「……」

『午後6時、コンテナ前』

自身でメモした紙切れを見て、一息つき、駅から歩き出した。


京にいた刹那は、3日前、江戸にいた高杉から連絡を受けた。

『よォ、刹那』

「久しぶりね。晋助さん…」

低めな声で、刹那は携帯越しに答える。

「何か用?」

『あァ。おまえ、今京にいんだろ?』

「そうだけど」

『ちょっと江戸に来い』

「!…江戸に?」

高杉が自分を江戸に呼ぶ理由は、だいたいの予想がつく。

『今度、幕府の要人が集まる宿を襲撃する。おまえの力を借りてェ』

「……構わないわ。そういうことなら」

『そうか。なら、3日後の午後6時、港で待ってろ。遣いをやる』

「3日後ね。誰が来るの?」

『黒衣の死に神だ』

それだけを言うと、高杉は携帯を切った。

「『黒衣の死に神』……」

刹那は呟き、携帯の電源を切る。


「一体、どんな人だろう…」

刹那はこれまでにも、何度か鬼兵隊に協力をしてきた。
だが、タイミングが悪いからなのか、黒衣の死に神に会ったことが無い。

「あと2時間位か…」

駅と港の中間辺りにある宿に行き、持っていた荷物を広げる。

「早めに着替えるかな」

着ていた茜色の着物を脱ぎ、やや丈の短い赤い着物を着る。

「えーっと、紐…」

髪を纏め、赤い紐でポニーテール状にし、白い襟巻きで口元を隠す。

「じゃあ、ちょっと早いけど、行くかな」

刀を腰に差し、煉獄姫(れんごくひめ)の出で立ちになると、窓から外に出た。


「…着いた」

人目を避ける為、裏通りや遠回りをした。
着いたのは、待ち合わせの15分程前。

「まだ着てない、か……」

黒衣の死に神の特徴は、2丁の銃を使うこと、女性だということ、そして、その二つ名通り、喪服をあしらった黒い着物を着ていること。

「晋助さんも、写真位送ってくれれば顔が分かったのに…」

ぼやきながら、刹那は目を閉じ、千里眼(せんりがん)と呼ばれる能力で波導(はどう)を見る。
波導は、全ての生き物や物質が放つ、気やオーラのことで、刹那は生まれつきそれが見える。

(顔までは見えないけど、これで何時来ても……ん?)

遠くから、青白く光る人影が見えた。

(あの人かな?)

波導で相手を吟味していると、思わず息を呑む。

(この人、まさか…!?)

そう思っていると、相手はこちらに銃を向け、発砲してきた。

「くっ…!」

目を開け、小刀を取り出すと、素早く弾丸を弾いた。

「…!」

キンッ、という高い音が響く。
呼吸を整え、刹那は小刀を構えて相手を見据える。

「流石ですわね」
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