地獄の姫が見た江戸

□第9話
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「これを使って勉強するんだぞ」

松陽から渡された教本を見ていると、後ろから桂が言った。

「この本を使って…」

ページをめくってみる。
字は読めないと思っていたが、何故か読むことが出来た。

「字ィ読めるか?」

「あ、読めます」

訊いてきた高杉に、振り返って答えた。
それを聞いて、高杉は少し残念そうな顔をしていた。

「刹那。勉強するのは、初めてだろう?」

「いいえ。ここでするのは、初めてですけど」

松光の問いに、首を振った。
先程から、ほぼ無表情で受け答えをしている。

「そ、そうか。まぁ行って来い、知らないこともいろいろあると思うぞ」

「…はい」

笑っていないが、明るめな表情で言い、銀時達と一緒に教室に行った。

「笑ってくれたら、すんげー可愛いと思うんだけどな…」

いつか、心から笑った刹那の顔が見たい、と松光は思った。


「ふぅ…」

昼休みに昼食を食べた後、刹那は1人、庭にある木の下に行き、寄りかかった。

「子供とは言っても、誰かと食事をするのって初めてだったかも」

誰かと食べることはあっても、相手は人間ではないことが多かった。
そのせいか、何をどう話していいか分からなかった。

「……」

足元にあった葉っぱを千切った時だった。

「刹那!何してんだ?」

「あ、…え!?」

突然の声に驚く。
自分の名を呼ばれたことに、一瞬気付かなかった。

「あ…えっと…流加…さん?」

声を掛けてきた少年に聞き返す。

「私に何か…?」

「だから、何してたんだ?」

「ちょっと、草笛を……」

「草笛吹けるのか?」

「はい…」

次第に声が小さくなっていくのが分かった。
誰かと普通の話をすることなども、今までなかったからだ。

「なぁ、草笛吹いてくれよ!」

「え!?」

「刹那の草笛、聴いてみたいな」

刹那は千切った葉っぱを見る。

「駄目か?」

「…いいですよ。それじゃあ…」

葉っぱを口元に当て、目を閉じた。

(あんまり上手く吹けないかもしれないけど、あの歌を…)

昔、一度だけ聴いたことのある歌を吹くことにした。
歌詞の意味は分からない、『いにしえのうた』を……。

「……」

吹き終わり、刹那は流加を見る。

「どうでしたか?」

「すっごく良かった!」

「…ちょっと、うろ覚えだったんで、上手く吹けなかったんですけど…」

「そうなのか?でも、本当に良かったよ!刹那って、草笛が上手なんだな」

「…!いえ…」

不意に目線を逸らした。

「そうだ!他のみんなにも聴かせてあげようよ!こんなに綺麗なんだから」

「え…?他の方達にも…?」
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