短編
□宙‐そら‐ 〜少女の理想〜
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『おまえが正しいと思うことに使うがいい……』
アルセウスと出逢ってから2年が経ち、イヴは5歳になった。
この2年間、アルセウスが別れ際に言った言葉を胸に、イヴは日々、神の力を使ってきた。
「えーっと薬は……あれ?無い」
ある日、神殿の薬品棚を整理していると、薬が幾つか無くなっていることに気が付く。
「この薬は、私でも作れそう」
瓶を一つ取り、イヴは臭いを嗅いだ。
薬は殆ど複雑な作りだが、この瓶に入っていた薬は、簡単な作りだった。
「材料は、森に行かないと…」
薬の材料は大抵神殿にあるが、薬草などの植物は、栽培が難しい為、森や山に採りに行っている。
(早めに行こう)
イヴは木製の籠を手に取ると、森へ出掛けた。
「花……あった!」
薬の材料になる白い花を見つけ、イヴはさっそく摘み始める。
(この花はいい薬になるけど、あまり数が無い)
名前も無い、細長い不揃いな花弁を持つ花は、使用によっては薬にも毒にもなる万能な花だが、とても数が少なく、貴重な物だった。
「3つあれば足りるかな…」
籠の中に入れた摘んだ花を見つめ、イヴが呟いた時だった。
コォォ…ン
微かだが、鐘のような音が森の奥から聴こえた。
「鐘…?」
イヴは籠を手に、森の奥へ行ってみた。
すると、やや開けた場所が、淡い緑色の光に包まれている。
「何…?」
鐘のような音が再び響き、光の中から、何かが出てくる。
『うぅ…』
小さな呻き声が聞こえ、イヴは出てきたものの近くに寄った。
「…!この魔獣は…」
抱き起こした魔獣を見て、イヴは驚く。
小さな触角に、妖精を思わせる羽を生やしたこの魔獣は、以前本で見たことがあった。
「セレビィ…?でも、本に載っていたのと色が違う」
本の挿し絵に描かれていたセレビィは緑色だったが、目の前にいるセレビィは、ピンクの色をしていた。
「あ、今はそれどころじゃない…!」
セレビィは傷だらけで、ぐったりと目を閉じ、かなり弱っていた。
イヴは抱きかかえ、神殿へ急いだ。
神殿へ戻ったイヴは、セレビィを自室へ連れて行き、花を入れていた籠の中に布を敷いて、そこに寝かせた。
「すぐに治しますからね」
イヴは特殊な指輪をすると、セレビィに両手を翳し、癒やしの力を使う。
(この傷…)
セレビィの全身にある傷は、魔獣による物もあったが、槍や剣と言った、刃物による物が多かった。
『うっ…』
「あ…」
薄目を開けたセレビィを見て、イヴは手を下ろした。
セレビィの黄緑の目が、イヴの姿を捉える。
「気が付きましたか?まだ動かないで下さい」