短編
□黄昏に散る
1ページ/5ページ
世界の3割の人間を殺したウイルス・白詛。
感染した者は、毛髪の色素が全て抜け落ち、半月を待たずに死に至る。
その白詛に、高杉も侵されていた。
「入るでござるよ」
万斉は、高杉の自室の戸を開けた。
室内に敷かれた布団に、高杉は寝ている。
紫色だった髪は、白詛の影響で白くなり、最早見る影も無い。
「……万斉か?」
高杉は目を開ける。
右目は焦点があっておらず、包帯をしていない左目に、白くなった髪がかかる。
「ああ……」
掠れた声の高杉に、万斉は震えた声で答える。
「何か……あったか?」
「いや。特には…」
高杉の症状は、日に日に悪くなっていく。
それこそ、いつ最期を迎えてもおかしくない程に……。
「そうか…。何も無ェ……か」
弱々しく呟き、目を閉じた時だった。
「万斉先輩!ちょっと来て下さい!!」
外からまた子の声が聞こえ、万斉は振り返る。
「どうした?」
「桂が…!桂が来てるっス!!」
「何…!?」
「……ヅラが?」
僅かに目を開けると、万斉が出て行く気配を感じた。
白詛が世界中に蔓延し、高杉も白詛に侵されたことにより、今や鬼兵隊は、幹部と数人の部下しか残っていない。
桂1人でも、易々と船の中へ入れた。
「おい。高杉はどこだ?」
甲板にいた部下達をなぎ倒し、桂は万斉と対峙する。
「…晋助の首を取りに来たでござるか?」
「違う」
桂は否定するが、万斉とまた子は警戒を解かない。
「晋助様は殺させないっス!!」
また子は銃を撃ち、桂は避ける。
「だから違うと言っているだろう!!話を聞け!!」
「……やめろ」
弱々しい声が聞こえ、見ると、船内へと続く出入り口に、寝巻き姿の高杉が立っていた。
「高杉…!」
白くなった髪に、壁で身体を支えている姿を見て、桂は思わず息を呑む。
「晋助、何をしている!?」
「寝てなきゃ駄目っスよ!!」
「…よォ、ヅラ…」
万斉とまた子の声をぼんやりと聞き、高杉は口を開くが、そのまま倒れた。
倒れた高杉を自室へ運び、寝かせた。
桂はその様子を、じっと見つめている。
「発症して、何日になる?」
「もう……半月になるっス」
半月……。
白詛に侵された者からすれば、かなり持ちこたえている方だった。
「だが。もう……」
万斉もまた子も分かっていた。
高杉はもう、永くないことを……。
「……ヅラァ、そこにいるか?」
うっすらと目を開けた高杉は、桂を捜す。
「ああ…。ここにいるぞ」
桂の声を聞いて、高杉は頷く。
「おまえらは、出てろ。ヅラに…話がある」
「……分かった」