短編
□finale 〜見つめる終わり〜
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あちこちから爆発が起こり、崩れていく建物。
遥か先に見えるターミナルも、爆発と共に崩れていく……。
(これも、俺のせいか……)
廃墟となった建物の上から、銀時は崩れていくターミナルを見つめて思った。
この身に宿っているナノマシンウイルス…いや、厭魅が現れてから、こうした光景を幾度も見てきた。
それと同時に、自身から発せられたウイルスで、次々に死んでいく人々も……。
(あいつらは、無事なのか……?)
自分の中で、世界を滅ぼすウイルスが芽吹き、周りを護る為に、仲間達の前から姿を消した。
だが、目に見えないウイルスは、自分の身体から世界中にばらまかれ、止めることが出来なかった。
(もう、あいつらに逢うことも出来ない……か)
自我は辛うじて保てているが、身体は完全にウイルスの物になっており、もう自分の意志では殆ど動けず、自らの命を絶つことさえ出来なかった。
気付いた時には、何もかもが遅かった……。
「……」
崩れた建物の中で眠っていた銀時は、目を覚ました。
(夢か……)
5年前のことや今までのことを、時折夢に見る。
ふと見上げると、月が出ていた。
月光の淡く儚げな美しさは、静かに自分を抱き寄せる。
先程の夢のせいか、自身の運命(さだめ)を切なく感じる。
本来の銀時なら、そんなことすら思わないが、ウイルスに自我が侵食されつつあるからか、ついそう思ってしまう。
こうしている間にも、自我は侵食されていく。
忍び寄るウイルスに追いつめられても、憂いを口にすることも出来なくなっている。
「……っ」
不意に、仲間達の姿が目に浮かんだ。
逢いたくても、もう逢うことの出来ない仲間達が。
逢えない悲しみが、ただ悲しかった。
狂おしいまでに恋しい。
いつまでもそばにいて、離れたくなどなかったのに……。
「…!」
座っていた銀時は立ち上がった。
自分の意志ではなく、ウイルスが勝手に身体を動かしている。
そのまま、建物を後にした。
どこへ行くのか分からない。
この星の生命(いのち)を全て根絶やすまで、自分は生き続けるのかもしれない。
自身から降り注ぐウイルスに彩られた、瓦礫と枯れた道を彷徨(さまよ)い続ける。
(早く……来てくれ)
自分が世界を滅ぼすのが先か、ある目論見が成功するのが先か、最早予測出来ない。
「うっ…」
意識が薄れてきた。
ウイルスの侵食が進んできているようだ。
(くっ…。やめろ…!)
銀時は必死に抵抗するが、ウイルスの力がずっと強かった。
意識が遠退き、窓ガラスに映った自分は笑みを浮かべており、途切れそうだった意識はそこで消えた。
それからは、意識が朦朧としているような状態が多くなっていった。
起きているのか、眠っているのかも判らないような意識のまま、あちこちを彷徨った。