□派遣された、僕。
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「なんでIS学園なんかに‥‥」

 はぁ‥‥、と鳥梨(とりなし)優(ゆう)は織斑千冬の部屋で溜め息をついた。

 よし、思い出してみよう。



 まず、物心ついた時には既にISに乗っていた。
 数年前までロシアの軍で鍛え上げられていたため、そこそこ腕はある。
 そして、当時幻の生物とまで言われていた篠ノ之束が乗っているニンジンを僕たちのいた軍が上空で発見し、軍全体で向かった。が、見事にニンジンに内臓されていたミサイルで敗北。
 幸い死者は出なかった。軍は、なんとか誰かを篠ノ之束に接触させようと試みた。それに使われたのが僕だ。

『はぁ? 誰だよ、君は。誰の許可を貰って入ってきているのさ。
 ここは束さんのラボだよ。分かったら今すぐ出ていってよ』

 こちらが非だが、それにしても酷い言われようだ。他人に興味を示さないのは本当らしい。
 しかし、ここは遥か上空である。
 落ちたらひとたまりもない。ISで降りればいいのだろうが、生憎自分は専用機などは持っていない。
 瞳に映った窓の外は雲の色のみ。景色も、何も見えない。
 このままだと本当に追い出されるだろう。
 ということはここから飛び降りるということだ。サァーと顔の血の気が引いていくのが分かった。

『――っ、あ、あの!』

 決死の覚悟で発言した言葉は一瞬で蹴散らされた。

 いや、覚悟はしていたけれど少しは悩んでくれても。

 くそっ、と呟いて篠ノ之束に背を向けた。
 目の前にあるのは恐らく外へと繋ぐ扉。天国への架け橋。
 ぼろぼろとこぼれる涙を拭きながら色々なことが頭に流れた。

 そして天国への架け橋に手をかけたとき、ポンと肩に手を置かれた。

『き‥‥期間限定で置いてあげてもいいよ』

 それが、僕と束さんとの出会い。




 そしてそれから数年が経ち、もういつ追い出されてもおかしくないと、ビクビクしていた時、声をかけられた。

「あのねゆーちゃん、お願いがあるんだ!」

 ビックゥ!! と体が震えたのは言うまでもない。

「な、何でしょうか、束さん‥‥」

 遂に来るのか!? 来ちゃうのか!? 
 心の中で覚悟をしていると、束さんはいつも通りに笑いながら口を開いた。

「あのね〜、ゆーちゃんにはIS学園に行ってほしいんだ☆」

 や、やっぱり!!?
 ――――えぇ、分かっていましたよ。そろそろ潮時だと。

「と言っても“生徒じゃない”けどね〜」

 “ちょっとある人を監視――見ていてほしいんだ☆”



 ――――あれ、涙がこぼれてきた。
 未だにこれが終わった後どうすればいいか分からないけれど、今はこうするしかない。

「うぅ‥‥やっぱり追い出されて‥‥」

 結構好きだったんだけどなぁ、束さん。
 例え家事が出来なくても、パシリにされても、何かの実験台にされても(未だに何の実験かは不明。健康だから別にいい)、スキンシップが異様に激しくても!
 ‥‥これだけ並べるとマイナス面しか見えてこない。不思議。

 壁に寄りかかると、再び深い溜め息をついた。

 空は、青い。

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