SHORT

□ミスター
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「何だ、それで拗ねてたんかよ?」
「拗ねてねぇよ!」
「んで、何作ってもらうんだったんだ?」
「聞けよ!」


リクエストはなんだったかと聞けば、煮物と返ってきた。


「煮物?」
「悪かよ!テッサイさんのはうめぇから食いたいんだ!」


余程食べたかったのか、余りの剣幕にたじろぐ。
ここまでムキになって食べたがるジン太の姿に、根っからの長男気質な一護の心がくすぐられ、自分が作ろうか、と提案してしまった。


「はぁ!?」
「えぇ!?」
「わぁ…」
「何と!よろしいのですか?」


テッサイとウルル以外の二人からは何とも予想通りな反応が返ってくる。


「テッサイさんにはいつも色々食わせて貰ってるし、いつものお礼。テッサイさんみたいに上手くはいかねーだろうけど、食えるもんは作れるよ。」
「いやいや、先日頂いたマドレーヌもプリンも大変美味しゅうございました。」
「…先日頂いたマドレーヌとプリン…?」
「おぅ。妹達にもせがまれてたし、いつものお礼に、久々に作ったからお裾分け。」
「アレ、オレンジ頭が作ったのか!?」
「うるせぇなぁ。食えなくはなかっただろ?」


そして、あれよあれよと言う間にその日の浦原商店の台所事情は一護に委ねられた。


++++++



「はー。流石テッサイさん。色々揃ってんなぁ。」


今の季節には珍しい食材も綺麗に無駄にならない分が数多く揃っている。職業間違えてるんじゃあ…?と思うのは一護だけではないと思う。
さて、と気合いを入れ、調理を開始する。


「…店長。ホントに大丈夫なのか?」
「うーん、こればっかりは何とも…予想外だったので。」
「二人共黒崎さんのお菓子食べたのに信じられないんですか?」


廊下の影から怪訝そうに心配そうに一護の後ろ姿を見つめるジン太と浦原、更にそれを見つめるウルルがいた。
だってよ、とジン太から反論がくる。


「菓子は作れても飯は作れねぇって奴もいるじゃねえか。」


そこで話は途切れる。
良い香りが漂ってきた。
三人の視線が一護に集まり、そこで息を飲む。
視線の先には、とても優しく、けどどこか寂しげな表情をした一護が黙々と料理を作っていた。
見ているこっちが温かくなるような、それでいて切なくなるような。そんな表情をしていた。


「ジン太、ウルル。店先の掃除お願いします。」


動けずにいる二人に、浦原が声をかける。
わかった、とあい、という静かな返事と共に二人は外へと向かう。
そんな二人が表に出たのを確認すると、一護に近付き、背後から抱き締めた。


「え、浦原さ…ン、」


その細い首筋に唇を這わせ、驚いて振り返った顎を取って深く口づける。ちょっと、と反抗する声を無視して、そのまま自分の方へと振り向かせ、更に深くキスを繰り返す。
この感情は何だ。
何故、そんな顔で笑うのだろうか。
時折、情事の時にも向けられるその瞳で。


「んんっ、…ちゅ、ふ、ぁ…」


ぴちゃり、と卑猥な音が響く。
一護の体シンクにきつく押し付け、逃れられないようにする。
暫く口付けを繰り返すと、漸く満足したのかはぁ、と色を含んだ吐息と共に唇が離された後は軽く啄まれる。


「ど、どうしたんだよ、急にっ?ん、」
「んー。何でもないっスよ。ただ無性に今すぐめちゃくちゃに抱き潰してやりたいなって思っただけ。」
「は!?こ、こんなとこで何物騒なこと言ってんだよ!?」
「ウルルもジン太も表にいるし、いいじゃないですか」
「いやいやいや、待て待て!ちょ、ぁっ…、」


一護の首もとに顔を埋め、腰を撫で上げる。息を詰める一護を横目に、浦原の手は悪戯に背中から腰へかけて自由に這い回る。
散々浦原に慣らされた体は素直に熱をあげる。
流されてはいけないと思いつつも、拒みきれない。
しかしこんなところではいつ子供達が帰って来るともわからないからたまったものではない。
いい加減にしろと拳を振り上げた時。
じゅわわわ。


「あ!鍋っ!」


鍋が吹いたことに思考が引き戻され、浦原を突き飛ばす。
あいた!なんて声が聞こえたが、この際無視だ。
これ以上浦原に対応していればそれこそ彼の思う壷だ。
これ以上手を出すならばお前は飯抜きだ!と釘を刺して台所から追い出す。
はぁい、なんて間の抜けた返事も聞き流し、残りの調理に取りかかる。
その後はちくしょう危なかった、と己の甘さを叱咤する様にひたすら料理に打ち込んだ。



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