SHORT

□その先の未来は、
4ページ/4ページ




++++++


廊下を進む途中でルキアと別れ、それぞれの部屋へと向かう。
白哉との関係を邸の人間に伝えた記憶はないが、何故かいつも一護の布団は白哉の部屋に用意されていた。
今日もさも当然のように横並びに用意されている布団。
この部屋で、布団で、幾度となく抱かれた記憶がまざまざと甦って頬に熱が集まる。
そろりと、しかししっかりと背後から抱き締められて項に舌が這わされたのに大袈裟に肩が跳ねた。
普段は冷たいくらいなのに、今は熱い白哉の舌に一護の体にも火がついていく。流されてしまいそう…。


「あっ…、白哉!?」
「…何だ」
「ひっ、昼間も、ン、したじゃねえか!」
「あんなもので足りると思うか?」
「で、でも…あ、風呂!俺風呂入ってないし!」
「私も入っておらぬ故構わん。」
「けどっ…ぁ、」
「煩い。もう待てぬ。」


どうにか言い訳を見付けようとする一護に常なら有り得ないくらい強引に事を進めようとする白哉。
そんな白哉にだめだと言いながらも、抵抗する力は段々と弱まって行き、突っぱねていた腕はいつしか白哉の背に回されていた。


「は…、ぁ、ぃゃ…っ」


昼間抱いたばかりの体は従順に花開いて行く。強引に事を進めようとも、痛い思いはさせたくないので好都合だ。しかし不満が一つ。


「何故、声を出さぬ」
「…む、ムリだってば!」
「昼間はあれ程素直に啼いていたではないか」
「啼い…!?っ、は、恥ずかしいんだってば!それに、ンンっ、俺なんかの声聞いたって気持ち…ぁ、わりぃだけだろ!」


昼間抱いた時には聞けた一護の矯声。己の部屋であれば更に素直に啼いてくれると思っていたが、一護は頑として声を出さなかった。
はしたなくも真っ昼間からあんな声で啼いた己を恥じて、頑なに口を塞ぐ。
それが白哉には大層気に入らなかったらしく、目の色が変わった。


「…もう少し慣らしてからと思っていたが、わからぬならその体に叩き込んでくれよう。」
「…え?」
「今宵は眠れると思うな。」
「ぇ、…痛っ!」


大して慣らしもしない後孔に自身を宛がい閉ざされたそこへ侵入する。突然の事に驚いて力が入るそこを一護自身に触れることで緩めさせると、すんなり許された。
痛がる割には体は正直で、一護も白哉を求めているのだと言われているようで口許が緩むのを感じる。
いきなりの挿入に苦しそうにしていた一護も、収まり切ってしまえば恍惚とした溜め息を吐いてうっとりと瞳を溶かしている。
その瞳を己に向けたくて、一度強く突き上げた。


「ひぁんッ!?」


思いの外高く上がった声に慌てて両手で口を塞ごうとすると、再び突かれる。アッ!と続く矯声に心地良く思う。
決して演技などではない、素直に出される声はもっと聞いていたくなる。それこそ、一晩中でも。
愛しい子供が己の腕に戻ってきた。そして今己の腕で快楽を与えている。
白哉自身、自分はもっと淡白な方だと思っていたが、この子供を目の前にすると途端に欲しくなる。
今さらがっつく年齢は当に過ぎているし、誰でもいいわけではない。
一護が一護だから欲しくなる。そして一護にも己を求めて欲しいと思う。


―――アッ、ゃ、ぁ、あっ!ああっ…白哉ッ!


矯声の合間に呼ばれる自分の名は、最早毒だ。
どこか別のものに聞こえる。
呼ばれたことに応えるように一護、と囁けばきゅうっ、と後孔が締まる。
一護が以前、全てを持って行かれそうになると話していたが、確かにそうだと思う。
一護の前では当主でも隊長でもなくただの男でいられる。だからその分情事の最中は一護に何もかもを持って行かれそうになる。
あまりに優しく不器用に白哉を甘やかせて包み込もうとするから。だから手放せずにいる。
そして一護が再び死神となった今、もう本当に手放すことなんて出来ない。


「…一護、っ」
「びゃ、く、やっ…ァッ!」


まるで白哉の感情の全てが己の中に流れ込んで来るようだ。
自分にも他人にも厳しいこの男は、それでいてとても不器用で繊細だと思う。護挺に居ても家に居ても常に立場に負われる存在。無表情のその裏で幾度もの悲しみも苦しみも葛藤も、全て一人で飲み込んで来たのだろう。それは到底一護には計り知れないものだけれど。
以前ルキアが言っていた一護の前では少し崩れるその仮面を、いつの日か全て引き剥がしてくれる存在が現れればいいと思う。
そして出来ることなら、自分がそうでありたいと思う。
しかし、この手は何れきっと一護とは違う手を握る日が来るだろうと、いつも心の何処かで考えていた。考えないようにもしていた。
死神の力を失ったことでどうにか諦めようとしていた。
けれど思い込もうとすればする程離れたくないと思ってしまい、夢にまで現れた時はもう限界だと思った。
白哉に力強く抱かれている今でさえ、離れなくてはいけない気持ちと離れたくない気持ちが一護の思考を乱す。


「…っ、何を、考えている…」
「!…ぁっ、な、にも…あぁっ!」
「要らぬ事は考えるな…」
「ん、んーっ…はぁっ、あ、」
「…今は私だけを見て、感じていれば良い」
「!びゃ、く…っ」


まるで一護の全てを見透かしたかのようにその目に、声に、射抜かれる。組み敷かれて少し距離の開いていた体を抱き寄せられて隙間をなくされ、普段よりも数段熱い肌に触れて心が満たされる感覚に鳥肌が立つ。
やっぱり、自分はこの男が好きなのだと痛感させられる。
全て委ねてしまえと、悪魔が囁く。
正常位から対面座位へと体位を変えられて深く埋まる白哉にアア、と高く声が上がる。
自重によってより深い場所で白哉を感じ、強い快感から逃れる様に白哉の背に爪を立てる。そうすると、それに応えるように一護の中で体積を増す白哉に頭を振る。
苦しいけれど嬉しくて、もっと触れていたくて。
その想いが通じたかのように白哉から深い口付けを与えられ、後はもう、その背にすがり付くだけだった。


++++++


長くて短い夜は終わりを告げ、無情にも朝はやってくる。
まだ荒い息のまま、二人分の愛液やら何やらで乱れた布団に二人で身を投げ出していた。
背後から抱き締められたまま、未だ白哉が一護の中に収まっている。離れていた時を埋めようと決して一護を離そうとしない、白哉にしては珍しい束縛が一護を甘く縛りつける。もう、指一本も動かせない程に愛された。


「…兄が何を考えていようが、二度と離しはしない」
「…ゃ、くゃ…」
「逃れられると思うな」
「……」


切なくなる甘い声でそんなことを言われてしまえばもう逆らえない。今はまだ、この腕の中に囲われていたくて小さく頷く。そして白哉にも聞こえるか聞こえないかと言うくらい小さな声で愛してる、と呟くときつく抱きすくめられ、また苦しいくらいに口付けが降ってくる。初めて一護から伝えられた言葉に、白哉も深く愛しさを噛み締めた。
この先のことなど誰にもわからない。決めるのは己達自身。だから決して話さないと一護の手を握りながら誓うと、小さくも確かな力で白哉の手が握り返された。







その先の未来は、
(まだ見えないから、どうか今だけは貴方の傍に居たい)
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ