SHORT

□その先の未来は、
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死神の力を無くして色を失った一護の世界は、一瞬にして息を吹き返した。
そして言葉にして伝え切れなかった思いのありったけを込めて、抱えて、どうにか銀城を現世へと還してやれてから数日が経った。


何かと呼び出されて剣八と命懸けの鬼ごっこをして、京楽と乱菊に酒に誘われ、拳西に叱られてローズの演奏に付き合わされて。
砕蜂には夜一の近況を洗いざらい喋らされ、卯の花にはもっと体に気を使えと諭されて。
平子とは世間話をして、浮竹とも話せるようになった。
慌ただしく顔を出して慌ただしく現世へ帰る。
そんなことを幾度となく繰り返していた。
あの人には意識的にも無意識的にも、逢わないようにしていた。
あの人―――朽木白哉には。


++++++



白哉とは恋人同士だった。
都合が合えば一緒に居て、温かい時間を過ごした。
そんな二人の関係を知っている人間は、ルキアのみで、感付いている者もいる様だが副官の恋次でさえ知らない関係だった。

しかし、僅かでも意識的に避けている人には遭遇してしまうのが、悲しいかな人の性だ。
ルキアに呼び出されて尸魂界に足を踏み入れ、指定された場所・六番隊へと顔を出した。
絶対に恋次がいるだろうと思って入った部屋には、白哉しか居らず、一護は己の探査能力の低さを今日程呪ったことはないくらい恨んだ。
何を話せばいいのか戸惑う自分とは反対に、白哉は平静で意識しているのは自分だけだと言われているようで気持ちが沈む。
こちらを向いて欲しいけれど、目があってしまえば距離を取り辛くなる。
そんな一護の心情を察したかのように、白哉から声がかかる。


「どうした。先程から霊圧が乱れているぞ。」
「え、いや…何でもねぇ…」


焦がれていた声への返答に、情けなくも声が震える。
自分は、今までどうやって彼と話をしていたのか、わからなかった。
戸惑う一護の様子に、白哉からは冷たい言葉が投げ付けられた。


「恋次に用があるならば伝えておいてやる故、他で待て。」
「え…、」
「私と共に居たくないのであれば、出て行くが良い。」
「なに…」
「力が戻ったあの日から、兄は私を避け続けているだろう。それ程迄に嫌ならばここに居る必要などない。邪魔だ。去れ。」


思ってもいなかった白哉の言葉に呆然とする。
傍に居たくないなど、微塵も思ったことはない。
しかし今、自分は何と言われた?
今まで曖昧にして逃げていた結果、誤解を生んでいる。どうしたらいい。


書類を捌いていた白哉だが、一向に動かない一護の気配に目をやると、息を飲んだ。
そこには、立ち尽くして白哉を見詰めたまま涙を溢す一護の姿があった。
泣いてはいるが、本当に泣いているのか確かめたくなる程、静かにただ涙だけが流れている。
それは一護が見せた初めての涙。


「…何故泣く。」
「…ぇ?」
「何故泣いているのか聞いているのだ。」
「ぇ、俺…あれ?」


そこで初めて自分が泣いていることに気付いた一護は、慌てて頬を拭う。
その様子を、ただ黙って白哉は見詰めた。


「なんで、かな。…っ、わり、止まんね…っ、」


ぽろぽろと次から次へと溢れる涙は止まる事を知らない。


「ごめん、ほんと、っ、ごめっ…」


一つ溜め息を吐いて立ち上がった白哉の気配にびくりと体を震わせ、そのまま扉へ駆け出そうとする一護の腕を白哉が掴んだ。


「!?」
「…何故泣いているのか、と聞いている。」
「っ、」


喉が詰まって声が出ないのか、仕切りに首を横に振る一護の腕を引き寄せ、壁に押し付けた。
そこでやっと、二人の視線が重なる。
もう目を反らすことは許さないと、睨むような強い眼差しが一護を射抜く。


「私と共に居るのが嫌だったのではないのか。」
「ちが、ぅ」
「逢いたくはないと、思っていたのではないのか。」
「…って、なぃっ」
「では何故…、」


何故泣く、と続くはずの言葉は、一護からの口付けでその唇に飲まれた。
思ってもみない一護の行動に目を見開いた白哉だが、そのまま引き寄せて口付けを深いものに変えた。


「ん、は…、ぅ、んん…」


舌を絡めて擦り合わせて、噛みつき合う様に口付けを交わす。泣いていて息が苦しかったが、唇が離れることを許されなかった。
吐息すら飲み込まれてしまう。
ぴちゃりぴゃりと静かな室内に卑猥な水音が響いて、どれくらい唇を重ねていたのかわからない程でやっと離れた時にはお互いの唇は腫れぼったくなっていた。
至近距離で合わさる瞳に、もう逃げられなくて。
解放された腕を白哉に伸ばしてその存在を確かめるように頬に触れる。


「あい、たかった…っ」
「では何故避けていた。」
「こわかった…!」
「……」
「すき、すきなんだっ、白…っ」


逢いたかった。でも怖かった。その手に己とは違う手が握られていたら。
関係をなかったことにされていたら。
『視える』という力がないことは、傍にいる資格などないのだと言われているようで。
手放さなければいけないのはわかっていて忘れようとしたけれど、いつだって想うのは貴方のことだけだった。好きで好きでどうしようもないと、伝え切る前に唇を塞がれた。



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