SHORT

□紡いだ金糸に触れる
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さらり。
はらり。
しゃらり。
例えるならそんな音がしそうな程見事な橙色の滝だった。



++++++



その日浦原商店へと足を運んだ一護は出された菓子に何の躊躇いもなく手をつけた己を心底呪った。だってまさか。
気を抜いていたことがとてもショックで、しかし恨むのは菓子を用意したテッサイではなく、仕込んだ浦原だ。
しっとりふんわりした紅茶シフォンとローズマリーを練り込んだシフォンの二種類に生クリームが添えてある。勉強で頭を使ってきた体は糖分を欲する。その欲に逆らうことなく(テッサイの手製なので躊躇わず)美味しく頂いた。美味かった。確かに上手くて一時の至福を感じた…のが最後の記憶。次に目覚めたのはその事から30分後の事だった。
嫌にスッキリとした目覚めに上体を起こして辺りを見渡す。
浦原商店だ。そして浦原の自室だ。訳のわからない本がびっしりと棚に並べられ、浦原の煙草の匂いが染み着いた、浦原の自室だ。何の変鉄もない。
しかしこの違和感は何だ。とても嫌な感じがする。とりあえず己の体を見回して手をぐーぱーと握ってみるが別段可笑しいところは見受けられない。顔にも触れてみたが変形してる訳でもないし、女になっていた訳でもない。
だとしたらこの違和感は?頭が妙に重たい。何なんだ、と苛立って頭を掻こうと頭部に触れたとき。


「なっ…なんだこりゃ!?」


某俳優もびっくりのリアクション。というか、一護自身、自分からドン引きしたくなった。
だって。だって。


「何で髪がこんな伸びてんだよ!?」


そう。短髪と言えるほど短かった一護の髪の毛は今や腰に届く程伸びていたのだった。何でだ!?とパニクったのも束の間、原因は間違いなく浦原だと行き着いて今日こそ縛り上げてやると目を吊り上げた。
そのタイミングを見計らったかのようにカラリと障子戸が開き、あ、起きたんスか?と呑気に家主が戻って来た。相変わらずの悠長な構えに、一護の怒りは増すばかりだが、浦原は全く気にする素振りを見せずに一護の背後に腰を下ろしてまじまじとその橙色の長髪を見詰めて触ろうとした。


「やー、ホント見事なものっスねー。大成功という言葉がぴったりだ」


なーにがぴったりだ。だよこのアホ店主が!テメー何人を実験台に使ってんだよ誰が許可したよつかテッサイさんが作ってくれたもんに何してくれてんだよこの変態帽子がバカタレ!!
と、浦原が髪に触れようとした瞬間振り返って胸ぐらを掴み、ガクガクと揺さぶりながら一息で言い切った。まだまだ言い足りないがとりあえずこれだけは言っておきたい。
ぱちりと一つ瞬きをした浦原は、髪を伸ばす薬の注文があり、商品にするにあたって効果の程と持続時間を正確に知るために一護の食事に薬を仕込んだと簡単に説明した。では何故実験対象が一護だったのかと問えばどうせやるなら綺麗な髪がいいじゃないですか、と言ってのけた。そのさも当然と言わんばかりの態度に毒気を抜かれて一護は浦原の胸ぐらは掴んだままダラリと脱力した。
そうだよな、こいつはそういう奴だったと、怒りも持続しなくなっていた。
胸ぐらは掴まれているが力は入っていないため体の自由がきく浦原は項垂れる橙色を見詰めてさらりと髪を撫でた。その感覚に驚いて顔を上げれば、一護の髪を真剣に見詰める浦原の瞳にドキリとしたが、ただ一点の髪だけに向けられる視線に少しムッとなる。髪フェチかと言ってやりたくなる程一護の髪を撫でてはすいて、絡めて、流して…を繰り返している。その手に熱は込められておらず、本当にただの実験道具としてしか触れられていないのだとわかると途端に悲しくなってくる。
そんな顔をしているのも見られたくないし、悟られるのも癪だったから髪を触る浦原の手をぱしりと叩き落としてそっぽを向く。


「もういいだろ。…どんくらい我慢すりゃ効果が切れんだよ」


項垂れたと思ったら冷めたような怒ったような態度をとる一護にオヤ、と疑問が浮かんだが、今日一日はそのままっスねと軽く返すと今日一日!?じゃあ家に帰れねぇじゃねえか!と焦る一護に、翌日は休日なのだから泊まって行けばいいと言えば増々不機嫌になった。




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