Dream-INFINITE-

□鈍感
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「このままじゃ遅刻しちゃう!」


仕事に遅れそうで必死に歩道橋を渡り、会社の入り口に走って行く。


「あと5分だ!」

「やべっ」


そう言って隣を走るのは黙っていたらイケメンなミョンス。


「また遅刻?」

「シンチェこそ!」


同じ会社で同じ部署の同期だ。
私よりも遅刻の回数が多い、はず。
大抵私が遅刻するときは一緒に遅刻している。


「私は夜中まで残ってるから良いの!」

「良くないよ、俺も残ってるし!」


12階にエレベーターがあるため、乗らずに階段で駆け上がる。
ミョンスは軽々と階段を登って行くが、さすがについて行けない。
急ぐ気持ちに反比例して段々落ちるペース。


「遅刻するぞ!」

「先行ってよ、あと少しだから!」

「お先!」


少しくらい心配しろって、なんて思いながらも重い足を上げて階段を登る。
会社に入ると同時に鳴るチャイム。
大きい溜息を吐き出すと、周りから笑いが溢れる。


「す、すみません…」


急いで席に着くと涼しそうな顔で笑っているミョンスが目の前に座っていた。
キッと睨みつけ、パソコンと向き合う。


「間に合ったんだ」

「うるさい、仕事して」

「昼飯持って来た?」

「あっ!!電車に置いてきちゃった…」


はっと思い出し溜息を吐き出すと、ミョンスはこれでもかと言うくらいに笑っていた。


「ちょっと、失礼でしょ!」

「ほら、コレやるよ」

「いりません」

「良いの?弁当なしで」


チラッとミョンスの方を見ると、電車に置いてきたはずのランチバッグを持っていた。


「なんでそれ!」

「たまたま見かけたから持ってきた」

「ちょうだい」

「やーだ」


馬鹿にするかのように舌を出すミョンス。


「返して!」

「お昼ご飯奢ってくれる?」

「なんで私が!」

「じゃあ、これ食べる」

「や、やぁ、分かったから!」


今日のお弁当は大好物が入ってるから、ミョンスに渡すわけにはいかない。
お弁当はミョンスが持ってるから、奢らない限り私の元には戻ってこないだろう。
悔しさを噛み締めながらもお昼を迎える。


「シンチェ飯行こ!」

「はいはい、弁当返して」

「奢ってくれたらな」


重い足取りでミョンスと食堂に向かう。
女子が少しだけ多い職場。
目線は黙っていたらイケメンなミョンスに集まる。


「何にするの」

「うどん」

「え?」


もっと高いものを頼むと思っていたため、拍子抜けした声が出る。


「何」

「もっと高いもの頼むかと…」

「そこまで性格悪くない」


うどんを頼み、受け取ればすぐ席に着く。
ミョンスは当たり前のように隣に座る。


「違う所で食べてよ」

「何で?」

「一緒に食べる意味ないじやん」

「一緒に食べないなら、とっくに弁当返してるっての」


良く聞こえなかったけど、文句を言ってるのかと流しお弁当を受け取る。
フタを開けると大好物が光り輝いていた。


「う、わぁ!」

「何々、くれるの?」


そう言って大好物に箸を伸ばすミョンス。
慌てて相手の腕を掴み阻止する。


「私の、私のだからね」

「良いじゃん、ちょうだい。お礼として」


絶対ダメ、とお弁当箱を抱え込みミョンスを睨みつける。
ミョンスは観念してうどんを食べ始める。
食べ終われば、バラバラに会社に戻り仕事に就く。


「でもさ、ミョンスくん、凄いよね」


お茶を飲もうと向かった給湯室から聞こえる話し声に聞き耳を立ててみる。


「毎回シンチェさんの遅刻に合わせて遅刻して来るもんね」

「付き合ってるのかな?」

「付き合ってないらしいよ!まだチャンスはある」


毎回私に合わせて遅刻?
私が遅刻してる時だけ遅刻して来てるの?


「でも、一歩間違えたらストーカーだよね」

「でも、あんなイケメンで性格良ければストーカーされたい!」


お茶は諦めて自席に戻る。
目の前にはミョンス。
さっきの話を思い出して、無意識に見つめてしまう。


「何だよ」


見ているのがバレたようで、パソコンから目線を外さずに声をかけられる。
慌ててパソコンに目を落とす。


「シカトですか」

「うるさい、仕事して」


言われてみれば、残業してる時も一緒だった。
昼食だって、ミョンスが居なければ一人で食べてるはずだ。


「変なの」

「いきなりの悪口かよ」

「私のこと好きなの?」

「好きだよ」


冗談混じりで聞いた言葉。
パッと顔を上げると顔が赤いミョンスと目が合う。


「え?」

「好きだよ、##NANE1##が」

「な、何言ってんの、冗談やめてよ!」


タイミングよく退社のチャイムが鳴る。
カバンに荷物を詰め込んでミョンスから逃げるように、会社を飛び出す。


「あ、またランチバッグ忘れた」

「だと思った」

「ミョ、ミョンス…」


電車に乗って座席に座ると、目の前に立っていたミョンス。
こっちは息切れしてるのに、息も乱さずに目の前に立っていた。


「逃げないでよ」

「今日は用事が…」

「返事は?」

「な、何のこと?」

「意識しちゃって、可愛い」


どうすることもできずに黙り込み、慌てて次の駅で電車を降りる。


「だから、考えてること丸わかり」

「な、なんで」

「なんでって、好きだから」


駅のホームで壁に追い詰められる。
ミョンスはそのまま耳元で小さく囁く。


「良いよ、今から俺なしじゃ生きられないようにしてあげる」





















fin
 

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