SSS
□先生、俺のこと…
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「なぁ、先生」
「何?」
「俺のこと、どう思ってる?」
「…は?」
梅雨を通り越して真夏が来た今日。
俺は学校に来ていた。
理由は簡単。
テストで赤点を取ったからだ。
目の前にいるこの人。巧真先生が担当している世界史だけ。
では、二つ目の問い。
なぜ、世界史だけなのか。
理由は前問より簡単だ。
巧真先生に会いたかったから。
俺は先生に、好意を抱いている。
今日こそは、それを伝えるんだ。
まあ、こんなガキを相手にしてくれるとは、端から思っていない。ただ、“先生と生徒”っていう、ありきたりな関係はもう終わりにしたかった。
だから、ちゃんと伝える前に小手調べ。
さて、どう返ってくるか…。
「え、何?急に…」
「だから、俺のこと、どう思ってる?」
「えと…、生徒、かな」
「…そか。そうだよね。生徒だよね」
あーあ。本心伝える前に玉砕しちゃった。
さようなら、俺の初恋。
淡い夢をありがとう。
「…皇紀?」
「何?巧真先生」
「何で泣いてるの?」
「…え」
自分の頬を手の甲で撫でると、確かに濡れていた。
「あ、あれ?何でだろ」
ホント、バカ。
「ごめん先生。ちょっと席外す」
「うん…」
バカ、バカ、バカ!!
何で泣いてんだよ!
当たり前のこと言われただけだろ!
俺が勝手に淡い期待を抱いていただけだろうが!
もしかしたら、なんて事考えたからだろ!
一階と二階とを繋ぐ階段の踊り場でへたりこみ、はぁ…とため息をついた。
言われなくても、分かっていたはずだ。
先生と生徒が恋人同士になるなんて、夢のまた夢。2次元の話だ。
あー…、もう嫌。このまま寝ちゃおうかな…。
「こんなところで寝るつもり?」
先生の声…?
「まだプリント残ってるんだけど」
先生の香りが鼻腔を擽る。
抱きすくめられている。
そう気付くまでに時間がかかった。
「せ、んせ…?」
「ごめん、皇紀。まさか泣かれるなんて思わなくて…」
「なんで、あやまってんの」
先生は俺に当たり前を教えてくれた。
むしろ感謝したいくらいなのに。
「先生嘘ついた」
「え…?」
「皇紀のこと、ただの生徒だなんて思ってないよ」
先生は、ずるい。
「世界史だけ赤点取るのは、俺と二人っきりで会いたかったからでしょ?」
「…先生」
「何であんなこと聞いたのか。それは、今日こそ伝えるんだって思ったから」
「…巧真先生」
「違う?」
やっぱり、ずるい。
「全部、知ってたの?」
「まぁ、薄々」
「じゃあ、何で嘘を?」
「…まさか、皇紀から言ってくれるなんて思わなかったから。ビックリしちゃって」
ゴメンね。
頭を撫でる手が心地いい。
あぁ、やっぱり好きだな。
「好きだよ」
「うん」
「大好きだよ」
「うん。俺もだよ」
幸せって、きっとこういう時のことなんだよな。
ずっと、このままでいたいなぁ…。
「さて、皇紀」
「何?」
「プリント、終わってないね?」
「あ…」
「戻ったら倍にしてあげる」
幸せに浸りすぎて忘れてた。
俺、補習受けてた最中だったんだっけ…。
「…俺に免じて、減らして?」
「ダメ。せめて今日の分位は終わらせて?」
「うー…」
「あ、だったらウチに来てやる?」
「本当に!?」
先生の誘いに俺は思わず顔を上げた。
「幸い明日は日曜日だしね」
「へ?」
「俺が勉強するってだけの理由でウチに呼ぶと思った?」
先生って案外…
「策士?」
「そんなわけないよ」
End.