太陽色
□君の居場所
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「あれ?陽香がいねぇ」
休み時間が終わって、自分の席に戻ると、今日転入してきたばかりの陽香の姿がなかった。
(もう先生は来てるし、居ないなんておかしいだろ……)
さっきも言ったけど、陽香は今日転入して来たばっかだから、絶好のさぼり場所を知るはずもないし、寧ろ、さぼるタイプには見えない。
でも、先生が陽香の欠席を気にせず話し始めたから、とりあえず授業に耳をもってった。
ただ、授業に集中しようとしても、入り口が気になってしょうがなかった。
陽香が戻ってくるんじゃないかと思ったから。
結局、放課まで陽香が戻ってくることはなかった。
○●○●○●○
帰りのSHRが終わって、特に掃除もなかったオレはカバンを持って、急いで剣道場に向かった。
道場に着くと、直ぐに胴着に着替えて竹刀を持って行った。
でも、部室から出て行こうとしたところで山崎君が入ってきたから、少しだけ立ち話をすることにした。
「山崎君さ、今日転入して来た子知ってる?」
「あぁ、篠原くんのことか」
「そうそう」
「それで、彼女がどうかしたのか?」
「アイツさ、今日授業中ずっと居なかったんだよな」
「彼女なら、保健室に居たが、」
「は!?保健室!!?」
「ああ」
「どっか具合悪かったのか?」
「それは分からないが、保健室が自分の居場所だと、言っていた」
「保健室が…居場所…?」
「ああ」
保健室が居場所?
転入して来てすぐなのに、友達もつくろうとしないで引きこもるなんて信じられないと思った。
「……なんだよ、それ」
なんでか無性にイライラしてきて、竹刀を持って乱暴に部室の扉を開いた。
すると、山崎君が不意に後ろから声をかけてきた。
「たぶん、明日も保健室にいると思うから、何か言いたいなら、直接言ってくると良い」
「そうだな。ありがとう、山崎君」
オレはそのまま道場に行き、部活動を始めた。
○●○●○●○
次の日、陽香は朝から教室に居なかった。鞄だけはあったから、たぶん、誰もいない教室に来て鞄をおいた後、すぐに保健室に行ったんだろう。
もちろん、午前の授業で陽香の姿を見ることはなかった。
昼休み
オレは、保健室に行ってみることにした。
「失礼しまーす」
「おや、平助君ではないですか。君が保健室にくるだなんて、珍しいこともあるものですね」
山南先生がにこやかな笑みで出迎えてくれた。
「山南先生。陽香居る?」
「居ますよ。一番窓側のカーテンのかかったベッドです。」
「あー。ありがとう」
陽香が居るというベッドの近くに行くと、カーテン越しでも分かるくらいの拒絶が感じられた。
カーテンを開けようかどうか迷っていると、カーテンの向こうから、自己紹介以来の声が聞こえた。
でも、その声は、自己紹介の時とはうって変わり、とげの含まれたものだった。
『私、教室には行かないよ』
なんでオレが言いたいことが分かるのか、たぶんそれは、前にも同じことが何回もあったから。
『絶対に、行かないから』
でも、その声は震えていた。
必死に何かを我慢しているような、絞り出すような声だった。
それでもオレを突き放そうととげを含ませようと頑張っている声だった。
『私、この先そんなに長くないんだよ?それなのに、友達つくったって、意味ないじゃない……。辛い…、だけじゃない』
オレは、たまらずカーテンを開けた。
カーテンを開けると、今にも泣きそうな顔をした陽香が居た。
陽香が、何かを言おうと口を開きかけたけど、オレはその言葉を遮るように言った。
「先が短いんだったら尚更楽しまなきゃ損じゃん!死ぬときまで独りぼっちなんて哀しいじゃん。」
『なら、友達をつくって、私が死んで、友達に辛い思いさせてもかまわないって言うの!?私は、居ないのに、いくら会いたいと思っても叶わないのに?』
「それで良いんだよ!陽香が死んでも、友達の中にお前は残る!だから、友達は辛くねーよ。きっと」
オレが話し終えると、陽香は下を向いてしまった。
そして、ぽつりと、呟いた。
『もう、遅いよ。初日から授業さぼるなんて、印象最悪でしょ?だから、たぶんもう無理だよ。』
「なら、オレが陽香の友達になる!」
『え?』
陽香は顔をあげると、驚いた顔で俺をみた。
『藤堂…くん?』
「オレが陽香の友達第一号になる!だから、その藤堂くんってのやめて、平助って読んでくれよな!」
『……なれるまで……藤堂くんで良いかな?……努力はするから』
「ああ!改めてよろしくな、陽香!」
『うん、よろしく』
「じゃあ、早速教室に……『まって!』……陽香?」
『心の準備ができるまで、ここにいても良いかな?いつになるかは分かんないけど、絶対に教室に行くからさ』
「分かった。じゃな」
オレは保健室をあとにした。
『うん。バイバイ………――――ありがとう』
君の居場所
(オレがお前の)
(居場所になるから)