太陽色
□素朴な疑問
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「そういや、陽香はなんで授業にでてねーの?」
『今更かっ』
藤堂くんはあの日以来、お昼休みには保健室に来て一緒にお昼を食べるようになった。
最初、私はあまり話さなかったけど、藤堂くんはその日の授業の様子とか珍事件とか、一生懸命話すもんだから、私も次第に話すようになっていった。
「いや、マジで何でだっけ?」
『授業でなくてもなんら支障がないから?』
「うわっ!!それイヤミかよ」
『冗談、冗談』
私がクスクス笑うと、藤堂くんは少し不機嫌そうに頬を膨らませた。
藤堂くんのそんな仕草は、弟のようで可愛いと思う。
私には兄弟や姉妹がいないから、余計に可愛く見えてしまう。でも、藤堂くんに可愛いって言ったら怒られてしまうから、そう思ってることは内緒。
「でもさ、授業出なかったらテストの時とか大変じゃね?」
『そうでもないよ?』
「イヤミかよ」
『いや、私保健室で自習してるから』
「へーっ!お前偉いな」
『まぁ、中学校の頃からずっとやってることだし。慣れだよ慣れ』
事実、原田先生に確認したら、数学は少し進みすぎているようだから復習程度に抑えてるし、そのほかの教科も特に遅れはないみたい。
でも実技教科は授業に参加してないから、実技の面では遅れてる。
「でも実技はやばいんじゃね?体育とかさ」
『……そう…、だね』
「?」
体育の実技は私には関係ない。
ドクターストップがかかってるし、原田先生もそれを承諾してくれてるからなんら問題はないんだけど、ね。
『そ、そうだ!!藤堂くんは勉強どうなの?』
「ゔ!それきくー?」
『いいじゃない。藤堂くんもさっき質問したでしょ?』
勉強ね話を振られ、バツが悪そうな気まずそうな顔をして視線を逸らした。
あ、成績が芳しくないんだなってすぐに分かった。
『分かんないところあったら教えようか?』
「い、いいのか?」
『うん。』
「なら、数学教えて!」
『あ、うん。いいよ。どこ?』
藤堂くんは、保健室の長机の上にあった数学の教科書を取ると、パラパラとページを捲って私の前に差し出した。
「ここ、ここ」
『あ、そこはね…』
○●○●○●○
「サンキュー!やった、宿題おっわり!」
『えっ!!宿題だったの!?』
「おう」
『あーぁ。自分でやらせるべきだった』
私がそう言うと、藤堂くんは「そりゃねーよー!」なんていっていた。藤堂くんは数学の教科書を元あった場所に戻しながら、私に何かお礼をしたいと言ってきた。
『お、お礼?ちょっと数学教えただけだよ?』
「いいから、いいのか!」
屈託のない笑顔で聞いてくる。
突然聞かれても困るんだけどな…。
でも、
『…何でもいいの…?』
「オレができる範囲なら何でも良いぜ!!」
『なら、私に剣道教えてほしい』
「?…分かった!練習の合間を縫って教えてやるよ!」
『あ、でもあんまり息が上がるような事はできないんだ。』
それを聞いて、首を傾げていた藤堂くんだったけど、了解してくれたようで、にっこりと笑ってくれた。
「じゃ、放課後迎えに来るから!」
『うん!待ってるね!』
「じゃあなー」
藤堂くんは保健室を出て行った。
『また、タイミング逃しちゃったな』
自分の病気のことを言う絶好のタイミングを逃しちゃった。
先が短いことは話してるから、どんな病気なのか言うのも戸惑わなくて良いはずなのに、なんで藤堂くんに言えないんだろう…。
素朴な疑問
(それはきっと)
(君だけには)
(自然体で接してほしいから)