偽りの姫
□ワタシノオニンギョウ
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見張りの隊士以外が寝静まった夜中。
一番組組長の沖田総司の部屋で、額にどっぷりと汗をかいて、苦しそうにしている少年(少女)がいた。
少年(少女)の名前は柊晶。
彼女は幼い頃の夢を見ていた。
思い出したくもない、悪夢を。
――――――
――――
――
「さぁ、晶。道場に行く時間だよ」
『はい。お父様』
…――バシンッ
「晶!!何時も言っているだろう!お父様ではなく、父上だと!お前は【女】ではない。【男】なのだ!そんな高い声を出すな!叩かれたくらいで泣くな!お前は【男】なんだ!一体何度言えば分かるんだ!お前はワタシノオニンギョウだ!ワタシの言うとおりにしていれば良いんだ!」
『…はい…。父上』
「解ればいい。さあ、行くぞ」
『はい』
お父様は私の手すら握ってくれない。
どんなに甘えたいと願っても叶わない。
お父様の中の私の存在は単なるオニンギョウ鬼の血を採取するためだけに産まれてきたのだろう。
嗚呼、死んでしまいたい。
私が弱かったら、誰かが殺してくれるのだろうか。
でも、それすら叶わない。
だって、私が弱くなったら……
「晶!!!何をやっている!!!」
そう言って殴られる。
私は、弱くなることすら許されない。
寺子屋でだって、成績が落ちることすら許されない。
どんなに痛くたって泣くことも許されない。
お父様は、家に着くと、私のご飯などそっちのけで、鬼の研究を始める。
鬼の強さに魅入られたお父様は、人間を鬼にするために、薬の研究をしている。
【風間千景】彼とお父様との出会いが全てを狂わせた。
人間を彼の強さに近づけるために、ただそれだけのために、血を手に入れたい。
その欲にかられたお父様は、私を【女】ではなく【男】として育て始めた。
私を強い【男】に育て、【風間千景】の、鬼の血を手に入れるために。
私は、ただその目的を達成するためのオニンギョウに過ぎない。
今思えば、この頃はまだ、幸せなほうだったのかもしれない。