偽りの姫

□君の
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隣から、呻き声が聞こえた。


その声は、苦しそうな声だった。でも、鈴を転がしたような、可愛らしい声だった。





僕は隣から聞こえる呻き声で目を覚ました。


時間は、だいたい丑三つ時ぐらいだろう。


呻き声の主は、紛れもない晶ちゃんの声。


だって、僕の隣で寝ているのは晶ちゃんだけだから。




(この子の地声って、こんなに可愛い声だったんだ)




って、僕は何を考えているんだ。




『……ぅ……ぃ……た…ぁ』




“痛い”?


晶ちゃんは、一体どんな夢を見ているのだろうか。


額や首筋の汗を見る限り、決して良い夢ではないのだろう。



『……ゃ…だ……。……っにたい……』



晶ちゃんの顔が、どんどん苦痛に歪んでいく。


汗で額に張り付いた前髪をソッと退けてやる。



『……っるしいよ……ちが…ほし…よ』



『だれ…か……たす……け……』



ああ、そうか。


この子、羅刹に近い状態になれるんだっけ。


なら、過去の夢を見てるのかな。



だとしたら、どれだけ辛い思いをしてきたんだろう。



どんどん苦痛に歪んでいく晶ちゃんの顔を見ていると、なんだか心配になって来て、僕は晶ちゃんの名前を呼んだ。



「晶ちゃん。晶ちゃん!」


すると、晶ちゃんはハッと我に返ったように目を覚ました。



『おき…た…さん…?』



僕の顔を見た瞬間、晶ちゃんの目から一筋の涙が零れた。



晶ちゃんは、僕の首の後ろに腕を回して、抱きついてきた。


さらしを緩めた状態で抱きついてくるなんて、無防備な子だなと思った。


だけど、僕のその考えは晶ちゃんが小刻みに震えていることに気がついたときに吹っ飛んだ。


そのとき、僕は、やっぱりこの子も女の子なんだなと思った。


それを考えると、なんだか急に愛おしくなってきて、僕は晶ちゃんの細い体を優しく抱きしめて、優しく、子供をあやすように頭を撫でた。



――…泣きたいなら泣けばいい



僕は晶ちゃんが泣き疲れて寝るまで、優しく、優しく抱きしめていた。


割れ物を扱うように……


 

 

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