偽りの姫
□いつもの朝
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(……優しい匂いがする……)
晶は小鳥のさえずりとともに目を覚ました。
目の前には、沖田の胸板があった。
「おはよう。晶ちゃん。泣いてスッキリ出来たかな?」
『泣いて……スッキリ……』
晶の頭には昨日の夜の出来事と夢が走馬灯のように流れた。
『…………やらかした』
「なにが?」
あれだけ敵対心剥き出しで接していた沖田に自ら抱きついた挙げ句、泣き疲れて寝てしまうまでずっと抱きついていたなんて、自分が恥ずかしい。と思っていた。
「ねぇ、そろそろ起きないとマズいんじゃない?」
『え…』
外をチラッと見ると、太陽がだいたい午の刻であることを指していた。
それよりも晶が気になったのは、自分が寝ていた布団が目の前にあるということだ。
「そろそろ起きないと、朝食、食べられないんじゃない?」
『ぅ…うわぁぁああぁぁああっ』
晶は急に恥ずかしくなって、沖田の布団から飛び出た。
沖田はそれを見て、ケタケタと笑っていた。
『お…沖田さん!い…い…から着替えるのでボクの立っている方向と逆の方向向いてもらって良いですか?』
「え?僕も着替えないといけないから、二人で背中合わせになれば良いんじゃないかな?」
沖田は、布団からケタケタ笑いながら起き上がった。
『ぅ…分かりました』
「よし。じゃあ、場所変わって。僕が廊下側のほうが良いでしょ?」
『そう、ですね。分かりました』
沖田と晶は場所を交換すると、着替え始めた。
静かになった部屋に、シュルシュルと布ズレの音だけが響く。
「僕は着替え終わったからもう行くけど、晶ちゃんは準備出来たかな?」
『あ、はい。準備、大丈夫ですよ』
「なら行こうか」
『はい』
そう言うと、晶は沖田の半歩後ろを歩いていく。
また、いつものようにくだらない口喧嘩をしながら。