偽りの姫

□歯車は速する
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「総司。アレが脱走した。おまえも来いとの御命令だ。」


「はいはい。今準備するよ」



沖田は一気に真剣な顔になると、着替え始めた。


その物音で目を覚ました晶は、沖田の顔から、全てを理解したようだった。



『斉藤さん。ボクはどうすれば良いですか』


「お前が同行するか否かは聞いていない。」


『そうですか…』


「晶は此処にいて」



晶が沖田のほうを見ると、真剣な眼差しで晶を見つめていた。



『分かりました』



晶がそう答えると、いつものようにヘラッと笑って斉藤と共に部屋を出て行った。



嫌な胸のあたりがざわつく。



『(斉藤さんが言っていたアレは、きっと羅刹になった人のことだろうな)』



晶は嫌な予感のせいか、なかなか寝つけなくて、袴に着替えて縁側に座っていた。


月が嫌に美しく輝いていた。



――――――
――――
――


「あれ?晶ちゃん起きてたの」


『はい。沖田さんは、不服そうな顔ですね』



沖田は、戻ってきた流れのまま晶の隣に座った。



「うん。美味しいとこ一くんにもってかれたから」


『つまり羅刹化した奴を切れなかった、と』


「気づいてたんだ。」


『まあ、伊達に半年以上も沖田さんの小姓やってませんからね。』



二人の間に妙な沈黙が流れる



「今日、羅刹、見られちゃったんだよね」


『え…』


「今、縛られて寝てる。縛ったの僕だけど」


『…その場で殺さなかったんですか?』


「土方さんがつれて帰るって言ってさ」


『明日、所存を決めるというわけですか』


「そう」


『それ、ボクも参加して良いですか?』


「それは土方さんや近藤さんにきかなきゃいけないけど、なんで?」


『その、ボクと同族の子の顔を拝みたいと思って』


「……なんでその子が女の子だって分かったの」


『鎌を掛けただけです。…捕まった子は女の子ですか。なら、尚更参加させてもらいたいです』


「分かったよ」



沖田は、立ち上がって自室に戻ろうとして、全く動く様子のない晶を不思議に思い、聞いてみた。



「晶ちゃんは寝ないのかな?」


『ボクは、目が冴えてしまって、もう眠れなさそうなので後起きてます。』



沖田は、さっきまで自分が座っていた晶の右隣に座り直した。



『沖田さん?』


「僕も起きてようかな。寝ちゃったら肩借りるけど」


『眠いなら寝ればいいじゃないですか』


「僕の気まぐれだと思って聞き流してよ」



晶の口元が微かに緩み、『御意』と沖田の方を見て言った後、視線を月に移した。


冬の澄んだ空気が、月の美しさをハッキリと伝えていた。


 

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