偽りの姫

□儚き
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晶が屯所に来てから、一年以上が経過した。


隊にもだいぶなれてきた。


しかし、晶は女である。


男所帯の新選組には【異質】な存在。


もちろん、千鶴もそうなのだが、幹部にバレているぶんまだましな方で、沖田にしかバレていない晶は、常に気を張っていなければならなかった。


唯一、沖田と部屋に居るときだけは気が抜けるので、その時間が晶の落ち着ける時間だった。





晶には男装をする上でのコンプレックスがあった。


それは、胸と女顔であること。


胸は、幼い頃からさらしで巻いていたのに、現代でいうCカップだし、顔は見事な女顔。


声は幼い頃からの特訓もあって、男の人の声が出せる。もちろん、女の声も出せるが。


身体だって、鍛えているとはいえ、所詮は女の身。身体の線が細くて華奢なのだ。


それらが重なっているから、平隊士には本当は女なのではと疑われる始末。


晶自身、そのことにはもうなれてしまっている。





「おい。」


『なんですか』





案の定、細いくせして組長達のお気に入りである晶が気に食わない隊士に呼び止められた。



「お前、この間、池田屋で気絶したらしいなぁ」


『だったら何なんだっていうんですか?』


「ハハハッ!そんな華奢な細腕じゃ無理だったってことだなぁ!!」


『余計なお世話ですよ』


「ってめぇ…!」



隊士は、悪態をつく晶を睨みつける。額には見事な青筋が浮き出ている。


その様子を知ってか知らずか、晶は言葉をつけたした。



『だいたい、力だけが強さではないでしょう?技巧とか、戦略とか洞察力とか、そういったものも、戦いの上では大切です。自分でいうのもなんですが、貴方よりかは強い自信がありますよ?ボク。』



隊士は口の端をひくつかせ、言い放った。



「良い度胸じゃねーか!!そこまで言うんだったら、勝負しようじゃねーか!!どっちが強いか、証明してやる!!!」


『……望むところですよ』



晶と隊士は、互いに殺気を放ちつつ、道場に向かった。





――――――
――――
――



晶と隊士は、木刀を握りしめ対峙した。


道場には人だかりができ、ざわざわと騒がしくなった。


それもそのはず。


対峙する2人は体格が余りにもせよ違いすぎたから。


晶は細く、小柄で華奢な体つきで、隊士は大柄でどっしりとした体つきなのだから。



「ほら。さっさとかかって来いよ」



隊士は挑発するように、人差し指をクイックイッと動かした。


晶は至って冷静な様子で、『その言葉、そっくりそのままお返ししますよ』と、不適な笑みをこぼした。


その言葉が隊士の癪に触ったのか、隊士はもの凄い勢いで晶に突進してきた。


晶は隊士の木刀を受け止め、その力を受け流した。


そして、その流れにのって、クルリと回転し、隊士の後ろに回り込み、木刀を隊士の首筋に据えた。


その動きにはいっさいの無駄がなく、晶の艶やかな黒髪が舞い、まるで踊りを見ているようだった。


あまりの美しさに、さっきまでざわついていた道場内もシンと静まり返っていた。



『勝負ありですね』



沈黙を破ったのは、晶の勝ち誇ったような自信に満ち溢れた声だった。


それを皮切りに、再び道場内がざわつき始めた。


負けた隊士を哀れむものや、「すげー!」「沖田組長の小姓なだけはあるなぁ!」など、晶を絶賛する声やら、様々だった。




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