偽りの姫
□鬼達のその後
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「へーぇ、良かったじゃねーの。風間」
「いや、そうと決まったわけではないからな。近々、確認に行くぞ」
「そうですね。それが賢明でしょう。」
オレが新選組の屯所から風間ん家に戻ると、不知火のアニキと天霧サンと風間が円になってなんか話してた。
「あーぁ、もっかい原田の奴と殺りあいてーな」
「フッ 不知火、貴様よほど気に入ったのだな」
「そういう風間だって、今日は随分機嫌が良いじゃねーの」
「フンッ」
風間も不知火のアニキも良いことがあったらしい。天霧サンも顔にこそ出していないけど、良いことがあったような顔してる。
「不知火のアニキ、ハラダって誰ッスか?」
「ん?おお、龍犬か」
「誰ッスか?誰ッスか?」
「新選組の奴だよ。たしか十番組組長っつたか?あんま覚えてねーけどよ」
「へーぇ。あー、だから屯所に殆ど人居なかったんスか」
「おまっ!屋敷から出たのか!?」
「良いじゃないッスか!こっから出るくらい!むしろ、今日はオレを褒めてほしいくらいッス!」
「はぁ!?」
「晶サン見つけたんッスよ?オレ!」
「「なに!?」」
晶サンの名前を出した途端、不知火のアニキと風間の目が見開かれた。
やっぱ、晶サンは大事にされてるんスね。
「で、晶はどうしてる?」
「新選組に居るのは知っていたが、殆ど言葉を交わさなかったからな。ただ、腕は鈍ってなかったな」
「それはオレも思ったッス!」
「貴様、晶と刃を交えたのか?」
「そんなとこしてないッス!晶サンに怪我させるわけにはいかないッスから!」
不知火のアニキも天霧サンも風間も、一瞬顔を強ばらせたけど、オレが刃を交えてないっていったらホッとした顔になった。
「言いずらいんスけど、晶サン、ここにいた頃の記憶ないみたいなんス」
「は?そりゃどういうことだよ」
「風間と関わったことは覚えてるんスけど、連れ戻されるほど関わった記憶はないって言ってたッス。それに、オレのこと、覚えてなかったッス…。」
そう言ったオレの頭を、不知火のアニキは慰めるようにポンポンしてくれた。
「アニキーッ」って飛びつこうとしたら殴られたッスけど、オレは全然気にしてないッス!
「龍犬、先程の話は本当カい?」
後ろから、オレらが忌み嫌う奴の声が聞こえた。振り返ると、そこには“柊痲宵(マヨイ)”が立っていた。
「痲宵サン…」
「龍犬、先程の話は本当ナんだネ?」
「…だったら、なんなんスか…?」
正直、オレはコイツが苦手ッス。
だって、何考えてるか分かんないし、雰囲気から危なくて、近付けば殺虫剤をかけられたら虫みたいに苦しくなりそうで。
鬼の血が濃いオレでも身震いをしてしまうほどの恐怖を感じる。
「クッ…ぁっハハハヒははっフハァっはハ!!クッハァハきひキックくく……」
「な、何が可笑しいんスか…?」
「何って、君ハ馬鹿かネ!?新選組と言えバ変若水!変若水と言えバ羅刹!ワタシが造ったノとはチガう羅刹が居るノだよ!!嗚呼、研究しタい。綱道ドノが造った羅刹を研究しタい!晶に頼んで血を採っテきてもらオうか。場所が分かッたノだ!ソレは容易イ!!嗚呼、ナンという高揚感!キヒひハはハッ!では諸君、ワタシは部屋に戻るトしよう。くククくクッ…」
痲宵サンはそれだけ言うと、部屋に戻っていった。
晶サンはまたあの人に振り回されなければいけないんだろうか。
いや、そうはさせないッス。
「風間。オレに晶サンの護衛をさせてほしいッス」
「フンッ。勝手にしろ。」
「ありがとッス!」
「龍犬、あいつを絶対晶に近づけんじゃねーぞ」
「分かってるッスよ!アニキ!」
「頼みました。龍犬」
「任されたッス!天霧サン!」
オレは、痲宵サンを晶サンに近づけないために陰ながら護衛する事になったッス。
表立っての護衛は新選組に所属してる晶サンに迷惑がかかるから、陰ながらなんス。
「それじゃ、今から行ってくるッス」
「気ぃつけろよ」
「はいッス!」
不知火のアニキに見送られて、オレは晶サンの護衛に向かった。