偽りの姫

□揺れる
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土方と新八は風間と、斎藤は天霧と、原田は不知火と対峙したと、夕餉の時間に報告があった。


その報告を聞いて、晶は強く拳を握りしめた。



「そういえば土方くん」


「何だ、山南さん」


「柊さんが皆さんに報告したいことがあるみたいですよ」



早速、山南は皆が出払っているときに明らかになった事実を話すように促してきた。



「そうですよね?」



彼は威圧のある、反論を許さない笑顔で話しかけ、それを合図にしたように皆が晶に視線を注ぐ。


中には分かっている人も居るが、知らない人が殆どだから、純粋に知りたいという気持ちが伝わる。だからこそ、晶はなかなか口を開けずにいた。



「…大丈夫」



沖田が晶にだけ聞こえる程度の声で、背中を押す。
その声に、晶は小さく頷いた。


そして、一番秘密にしていたことを、言った。





『実は、ボクは、女なんです』





その場の空気の流れがピタリと止んだのは言うまでもないだろう。
そんな空気の中で、一番に口を開いたのは新八だった。



「嘘、だろ?」



その新八の問いに、晶は静かに首を横に振る。
そしてその場はまた静かな空気に包まれた。


その場の空気が凍るのは当たり前だ。


戦いが終わった後の夕餉にいきなりそんな告白をされたのだ。困惑するのも無理はない。



「そ、そんな人が悪いぜ?2人して!こんな時に悪ふざけがすぎるって!なあ、平助!」



新八がワザと明るく振る舞って、きっと乗ってくるであろう平助に話を降った。しかし、平助からは何の返事も返ってこない。


不思議に思って新八が平助の方を見ると、気まずそうに下唇を噛み締めて、俯いていた。



『それは事実です。ボクは皆さんを騙していました。申し訳ありません』


「でも証拠はねーだろ?晶だって女顔気にしてるって言ってたじゃねーか」


『それは、女である事実を隠すためです。証拠は、この身体です。それに証人も居ます。』


「証人?」


「僕のことだよ」



声の主は、いつもと変わらない、ヘラヘラとした笑いを浮かべた沖田だった。



「彼は…いや、彼女は女だよ。」


「何で断言できるんだ?」


「だって見たから」


「は?」


『沖田さん!語弊のある言い方は止めて下さい!』


「胸にさらし巻いてるところ」



それでも幹部達は納得がいかないようで、大半の人は渋い顔をして唸っている。
土方あたりは薄々気がついていたようで、先程の証言で納得したようだった。



『なんなら、今ここで上脱ぎましょうか?』



晶が襟口に手をかけて少し開くと、制止の声が掛かった。



「柊くん。む、無理はせんでも良い。」



その声の主は顔を赤らめた近藤だった。


きっと晶がもしも本当に女だったら、ということを考慮したのだろう。
千鶴の時と同様に、必死に制していた。



「それに、彼女は鬼とも関わりがあるようですしね」


『ですから、それはボクにも身に覚えがないんですって!』



“鬼と関わりがある”その言葉だけで、幹部達の顔が一層厳しいものになる。それは当たり前のことなのだが、晶としては徹える(こたえる)。



「ですが、彼は“オレらの所に戻ってきてくれ”と言っていましたよ?」


『だから、ボクには身に覚えもないって言ったじゃないですか!』


「ですが、完全には否定しきれなかったですよね?」


『それはっ……!』



晶は、もしもここで記憶がないからと言って信じてもらえるだろうかと不安になり、口をつぐんでしまった。


しかし、今口をつぐんでしまえば、鬼と関係があるといっているも同じこと。



「『それは』なんですか?」


『それは、7歳から左之さんに会うまでの記憶がないからです。山南さんにはあの時説明したでしょう?』


「そんな馬鹿げた理由を信じると思っているのですか?」


『そんなっ……!』



記憶喪失とは何とも曖昧で、都合のいい言い訳のようにしか聞こえない。
しかし晶の場合は本当に記憶がないのだから、信じてもらえないのは辛い。



「晶ちゃんの言ってることは本当だと思いますよ」


『沖田さん……』


「土方さん。晶ちゃんも混乱してるみたいですし、この話は明日にしたらどうですか」


「……ああ、そうだな。皆、明日の巳の刻(*1)にまたここに集まってくれ」



山南は不満げな顔をしていたが、渋々立ち上がると広間を出て行った。
それに続くように、幹部達もぞろぞろと広間を出て行った。最後に沖田と晶が出て行き、広間は先程までの混沌とした空気とは打って変わって、静寂に包まれた。




*1 巳の刻→現在で言う9時から11時頃だったはず。



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