甘い目眩

□十人十色の春
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明け方前に彼ときちんと別れて部屋に戻ると、すぐにシャワーを浴びて少しだけ眠った。


部屋の掃除をして、昼には各々頼んだ引っ越し業者がやって来て、あっという間に荷物を積むとこの部屋との別れも呆気ないもんだったな。


私たちは明海ちゃんの車に乗り地元へ戻る道。

明日から3月なのに灰色な街。

夜は綺麗なネオンも昼間はなんの意味もないね。

窓から眺める景色が徐々に懐かしさを覚えると、胸が苦しくて仕方ない。


そー言えば昨日亮ちゃんからメール来てたな、倫子元気かってやけに素直でこれは戻ったらすぐくっついちゃうんかね?(笑)


なんて、人のことなら思うのに自分のことからは逃げ出したい。

景色が海に変わってからは特にね。

初めてここに来たときもこんな気持ちでこの景色を眺めてたな。


漁港から岬を過ぎて浜辺になると、先に倫子が実家で降ろされた。

笑顔で迎える倫子の家族に挨拶して、次は私の家。

正月ぐらいしか帰ることのなかった家、やっぱりちょっと憂鬱でいると明海ちゃんの渇。


『明日すばるの店でパーティーするから絶対来るんだよ!あとね、今日…。侯隆が愛のとこで手伝うことになってるからね。』


そう言われて反論しようとしたらもう家の前…。

しかも入り口のとこで、きみくんが待っていた。

出てった時と同じ、何か言いたげな複雑な笑顔で…。


『明海ちゃん…。』

『ほら、侯隆待ってるよ。早く降りろ、また明日ね。』

『うん…。ありがと。』


車を降りるときみくんと明海ちゃんが何かを話して、明海ちゃんは行ってしまった。


顔が上げられず俯いたままの私にきみくんは近づき、『おかえり』と頭を撫でた。

『ただいま』の一言、それが精一杯だった。


きみくんがいるなんてズルい…。

作業着のままだから、きっとお父さんが手伝うように言ったんだろうな。

きみくんは高校には行かずうちのお父さんのとこに就職したんだ、だから昔は毎朝きみくんとお父さんのお弁当を作るのが私の日課だった。

母子家庭で苦労してるきみくんをお父さんは凄く可愛がって後継ぎにするなんて言ってたもんなぁ。


我が家に帰るのにきみくんの後をのそのそついて行くと、待ち構えるようにいたお父さんとばあちゃんにちょっと引く。

それだけ帰らずにいた私がいけないんだけど、これでもう逃げられないんだろうなぁって悟ったよ。


それから昔と同じ部屋に荷物が運ばれるときみくんは開封まで手伝ってくれたんだ。

基本的には自分以外の話ばかりをするんだけどね、きみくんの携帯が鳴って誰かと話した後に教えてくれた。


『あのな…、俺彼女できてん。』

『えっ…。あっ、おめでとう?』

『おめでとうか?わからんけど(笑)』


そう笑ってからね、告白された、昔の気持ち。


『俺な、ずっとおまえが好きやった。おまえの気持ち知ってて、それでも好きやった。

でもおまえがおらんくなって気づいてん、すばるに振り回されて一喜一憂しとるおまえが可愛くてしゃーなかったんやなって。恋してたおまえが好きやったんやなってな。

それからな、まぁ今の彼女…、真子に会ってそーゆーのとかモヤモヤしたこと全部話して付き合うようになってな…。
まぁ、すぐにとは言わへんけど、おまえもすっきりせーよ。

あと、今度真子に会わせたるわ。
おまえと違ってごっつ可愛いから(笑)』


きみくんの話聞きながら泣きそうになる私に、最後は頭を撫でながらそう言った。

なんかわかんないけど、ちょっとへこんで、でも幸せそうで安心して嬉しくて複雑な気分。







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