黒バス

□秘密ごと
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部室に戻ると日向が寝ていた。
声をかけても体をゆすっても起きる気配がない。 今日はやけに張り切っていたから、いつも以上に疲れてしまってるのだろう。
完全下校まではまだ少しあるから寝かせてあげようか、そう思って隣に腰かける。
聞こえるのは日向の寝息と俺の呼吸音。
まるで世界に2人だけしかいないようだ。
そこまで考えて少し、泣きたくなった。
2人しかいない世界でも、きっと日向は俺を選ぶことはない。そのほうが今よりずっと辛いじゃないか。
そんなもしも話よりも、今のことを考えた方がずっといい。そこまで思考を巡らせてぼんやり眺めていたロッカーから隣で未だ寝ている日向に視線を移す。
…何も知らない日向がちょっとだけ、恨めしいと思った。俺の気持ちは絶対にバレないようにしていたから、日向はなにも悪くはないのだけれど。

(ごめん、日向)
心の中で謝りながらもやろうとすることはやめられない。これが最初で最後だから、と理由にもならない言い訳を考えて震える指で輪郭をとらえ、目は開けたまま、顔を近づけた。

何の音もしないまま、唇に一瞬、ほのかな温かさがふれる。
たったそれだけのことなのに、とても大きな罪悪感とどうしようもない嬉しさと、この世の終わりのような絶望感で胸が締め付けられる。もう俺には永遠に手に入れることのできないこの温度が他の人、相田には簡単に渡されるものだと思うと涙腺がまた緩みそうだ。

「……伊月、先輩?」

いつの間にか部室のドアのそばにいた黒子は普段のポーカーフェイスに動揺の色がみえる。誰にも見られる訳にはいかないと思っていた割には不思議とびっくりはしなかった。もしかしたら、俺は、心の奥で誰かに気づいて欲しかったのかもしれない。
人差し指を唇にあてて秘密にしてほしい、と口パクで伝える。声を出したら泣いてしまいそうだった。


一週間後、その時は戸惑いながらも頷いた黒子に俺の心のうち全てを話すことになる。

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