★星箱

□二日目!
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朝。


納戸に入る僅かな隙間から朝日が差し込んでるんだなと思い携帯を見れば朝の6時40分。


静かな家では色々な所の音がここまで届く。


台所の方から朝ご飯の準備をしているであろう万理子おばさんの声が聞こえた。
何かを切る包丁の音や、食器の重なった時の音。


いつも家では聞き慣れているはずの音も、ばあちゃんの家に来たらやっぱりちょっと違った様な音に聞こえた。


…にしてもまだ7時にもなって無い。
俺はいつも通りパソコンの電源を入れて、携帯でOZにログインした。


マイページに向かうと、いつも通りたくさんのメールが送られて来ている。


どれもこれも「キング・カズマへの挑戦」であったり「新しく入った装備アイテム」であったり。
広告の様なものからファンレターまでなんと50越え。


それもこれも、俺が『キング・カズマ』のプレイヤーなんだからだろうと思ったら、少し誇らしい。


その中に、見た覚えのある差出人からのメールが届いていた。


――――――――――


差出人:シルクス


こんばんは!私です、解るかな?
昨日は勝手に眠っちゃってごめんね。
それになんだか迷惑かけちゃったみたいで…。
本当にごめんなさい!

あと、えっと…何を書いたらいいか解らないや。
また今日、たくさん話そうね?
じゃあ朝ご飯の時間にね!


――――――――――


「…昨日の今日で。」


俺は布団の中でため息をついた。


昨日宣言した「頑張る」を、彼女は聞いていないはず(夏希姉ちゃんが言ってなければ)。
だけど具体的に何を?と思いだした辺りに、このメールだ。


受信時間を確認すると、ついさっきだ。


「…起きてるのかな。」


ふと思い、昨日いつも居ると言っていたOZの中央公園のブランコへと行ってみた。


そこに着くと、案の定ブランコの前で黒猫ベースの赤眼のアバターを見つけた。


ぴこんっと立ってるネコ耳を観察していると、シルクス(千早)と書かれているアバターが振り向いた。


「キング・カズマだ!」


斜め前にでた噴き出しに、そのセリフが昨日聞いたお姉さんの声で頭に入って来る。


「おはよ」


「おはよう!早起きだね?」


吹き出しをクリックしてチャットルームに誘った。
案の定お姉さんも受けて、画面は喫茶店のテーブルの様なものに変わった。


「一応非表示に設定したから、名前出しても大丈夫だよ」


そう送ると、あまり間を置かずに「解った」と返事が返って来た。


「いつもこの時間なの?」


「いや。今日はたまたま速く目が覚めただけ。」


「そうなんだ…もう居間に人が集まってるよ?」


「お姉さんも居るの?」


送信を押してからしまったと零した。
いや…別に悪い事じゃないんだけども。


これじゃあなんだか、お姉さんが居るかどうか確認してる重度の束縛症の彼氏みたいじゃないか?と自問自答している間に、普通に返事が返って来た。


「朝早く居間に行ったら、利一さんが居て物珍しいなら家の中を見て回ったらって言ってくれたの。」


「へー。…って、待って。迷ってないよね?」


「迷っては無いけど…」


その後に続く言葉を待とうとしたところで、コンコンと扉を叩く音がした。


「…入っていいよ」


俺は苦笑しながらお姉さんを納戸に招き入れた。
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