★星箱

□ないしょのデート
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「えと、ここが佳主馬くんの中学校…で、いいのかな?」


私は校舎を見て一人呟いた。


…もうすぐ4時だから、授業終わるよね。
でもでも、こんな所で待ってて「なんで来たの」とか言われたらどうしよう?
いやいや、そもそもなにしに来てるんだろ私ってば。


「…ふぅ。取り敢えず待っとこ。
怒られたら怒られた時だよね。
ただ…会いたかっただけだし」


そう言って無理矢理納得させた自分自身に言い聞かせた。とも言うけど。


キーンコーンカーンコーン


ちらほらと、学生服に身を包んだ生徒達が下校して行った。
門の角にいる私はどうやら浮いているようで、かなり色んな人達に見られている…


「…はあ、なんか心細い」


私は鞄を持ち直して携帯を取り出す。


…取り敢えず来てる事だけメールしておこう。


「…お姉さんどこの中学?」


「はい?」


目の前には、中学生…三年生くらいかな。
男の子三人が、私を取り囲む様に立って笑っていた。


「…中学生じゃなくて、高校生なんだけどな〜」


「うっそ!全然見えなかった!」


「中学生でも全然違和感ないよな〜」


言って、うち二人の男子生徒が笑う。
……そんなに幼いかな、顔。


「そっか!お姉さんヒマなの?
俺達と遊びに行かない?」


「ごめんね、行かない。
私、人待ってるから。」


そう言って微笑むと、
男の子達は「男連れか〜」と言って去って行った。


…うーん、私中学生でも通用するのか…


若干ショック。


私は知らずため息を付いた。


「…佳主馬くん、まだかな。」


そう思ってふと携帯を見ると、チカチカと光っていた。


「電話?はい、もしもし千早で……」


「千早さん!?ちょ、来てるってもしかして学校!?」


「佳主馬くん、声おっきい…」


私の言葉に「あ、ごめん。」と慌てて謝る。


「うん、佳主馬くんの中学校の門の所にいるんだけど…」


「ちょ、ちょっと待ってて!!
すぐに降りるから!!」


「え、別にそんな急いで……
切れちゃった。」


私は携帯をポケットにしまった。


ーーーーーーーーーー


「…ごめん!お待たせ!」


「待ってないよ!て言うか走ったの!?
汗びっしょりだよ!?」


「大丈夫…気にしないで…」


そのままぜーぜーと息をする佳主馬くんに、近くの自販機でお茶を買って渡す。


佳主馬くんは「ごめん」と呟いて受け取った。


「…落ち着いた?」


「なんとか…て言うかどうしたの、いきなり来るなんて。」


「うーん、特別な理由は無いんだけど。
…ちょっと、会いたくなっちゃって。」


「……え?」


佳主馬くんは、唖然として私を見る。


「メールはしょっちゅうするでしょ?
でも電話したいな〜とか、もっとお話ししたいな〜って思ったら、来ちゃってた。」


言って微笑むと、佳主馬くんはがくっと顔を伏せた。


「え?え?私、また変なこと言っちゃった!?」


「いや、違う。…恥ずかしいだけだから。気にしないで。」


「!!」


素直に照れてた佳主馬くんを見て、私も顔が赤くなるのを感じた。


…どうしよう、すっごく恥ずかしい…


私もつい、佳主馬くんから視線を外してしまう。


「…でもほんと、会いたかっただけだから!
それに、冬休みにまたお邪魔するし…電話もあるし、パソコンも…。
じゃ、じゃあ私、帰るね!」


「え、もう!?」


ぱしっ


言いたいことだけ言って、逃げようとした作戦は失敗した。


くるりと踵を返した時には、焦った顔した佳主馬くんに手を取られていた。


「せ、せっかく来たんだし、
この辺り回らない?」


「え、でも私制服だし…」


「いーじゃん、制服デート。」


「…デート?」


私が困った様に見れば、佳主馬くんは微笑んで私の手を取った。


「行こうよ、千早さん。」


「!!」


「自分で言って欲しい」と思って呼んでもらっている呼び方に戸惑っていると、佳主馬くんはすっと歩き出した。


…制服デートかあ。


私は嬉しくなって、ぎゅっと佳主馬くんの手を握り直した。


ーーーーーーーーーー


「実は案内しようかって言ったものの、案内出来るとこなんて知れてるんだけどね。」


歩きながら呟いた言葉に、私は微笑んで返す。


「いいよ、だって佳主馬くんと居るだけで私は嬉しいし楽しいもん。」


「……またそんな事言って。
俺をどれだけ混乱させれば気が済むの。」


赤い顔した佳主馬を見て、
私は何か変な事を言ったかと返すと「…この無自覚悪魔」と言われた。
……酷い言われ様だ。


「佳主馬くんだって、学ラン似合ってるし、この間の格好じゃないから…なんか、格好いくて、ずるい。」


「……なに、ずるいって…。
それじゃあ千早さんだって同じだよ。
なにその格好。可愛すぎるし、スカート短過ぎ。
脚は出てるし、もう俺何処に目向ければいいか解らないじゃん。」


「なっ!…こ、これ以上嬉しい事言わないで。
恥ずかし過ぎて死んじゃうよ…っ!!」


「!!!」


私はぎゅっと目をつむって、恥ずかしさを押し殺す。


「…ほんと、我慢すんの辛いんだけど。」


「………え、んっ」


「……っは、黙って。」


「…んぅ……」


私は重なってきた唇を受け入れる。
うっすら目を開けると、佳主馬くんが目を隠してきた。


「見ないで、恥ずかしい。」


「…は、…私だって、恥ずかしいよ…」


「……うるさい」


「ん…ん……っ」


また、乱暴に唇を奪われる。


合わせるだけ。
小さなキスが落ちると、手は退かされていた。


「…ごめん。我慢出来なかった。」


「ううん、…ありがとう。」


「普通そこでお礼言う?
…本当に千早さんって面白いよね」


「だって、…さみしかったから。
ちょっとだけ…だけど。」


「……ウチ来る?」


「へ?」


私はその三秒後には頷いていた。
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