★星箱
□三日目!
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ぱちっ
私は布団の中で伸びをすると、隣に夏希が眠っている事を確認して寝巻から普段着へと手早く着替えた。
「…よし。」
私は髪を手櫛で適当に梳いて、部屋の隅にある鏡の前で身支度を整える。
時間はまだ6時過ぎで、多分万理子おばさま以外の人達は寝ていると思う。
現に夏希も寝てるし。
「……今日こそおばさまに朝ご飯のお手伝いさせてもらうぞっ」
私はそう意気込むと、静かに静かに部屋を出た。
…今日で三日目。
だいぶんこの家の広さにも慣れて来て、迷う事も少なくなった。
私は昨日の晩御飯の時に夏希と行った台所を目指して、黙々と歩いて行く。
何度か角を曲がると、左側の暖簾の先に万理子おばさまが居た。
「…おばさま。」
「あら!早いのねぇ千早さん。」
「はい。おはようございます。」
笑顔で言うと、おばさまも「おはよう」と返してくれた。
「どうしたの?まだ6時じゃない」
そう言って驚いたように笑う。
私が「お手伝いさせてもらいに来ました」と言うと、目を細めて「じゃあ…お願いしようかしら」と笑ってくれた。
一日目は夕方近くに来たからアレだったけど。
二日目の朝も結局佳主馬くんと話しててお手伝い出来なかった事を思い出して、昨日の内に起きられるように小さな音でアラームを掛けていた。
お家に泊めてもらっておいて、何もお礼が出来ないなんて許せないから、おばさまが任せてくれて嬉しかったりする。
「…上手ねぇ」
「そうですか?」
フライパンを返した所で声がかかった。
…朝ご飯の定番と言うか、見事に「日本の和食」なラインナップを見ると、おばさまいつも大変なんだろうなぁと漠然にそう思った。
「いつもいつも、大変じゃないですか?」
「そうねぇ…慣れちゃったから。」
居間に料理を運ぶ頃には、ちらほらと皆さんが起きて来ていた。
「いつもはこんなに居ないから、少なくて済むけど。
こう言う風にたくさん集まった時は、少し大変かしら。」
「…あの。私でよければお手伝い出来る事があれば…。」
言って良いものか悪いものか考えあぐねて、歯切れの悪い言葉になってしまう。
それでもおばさまは優しい笑みを浮かべたまま、小さく呟いた。
「ありがとうね、千早さん。」
私は嬉しくなって「はい」と笑顔を返した。
…今日は栄さんの月命日で、陣内家の人達は全員集まって来るらしい。
夏希に見せてもらっていた家系図を部屋から持って来ないといけない。
嬉しいけど恥ずかしくって、でもとても温かい陣内家の人達と過ごせるのが後4日しかないのを、私は少し寂しく思っていた。