★星箱

□二人暮らし
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「一人暮らし!?この冬から!?」


「うん、そう。」


「うんそうって…。」


私の驚いたような声に平然と答える彼は、池沢佳主馬。
直訳すると私の大事な彼氏→未来の旦那様。


架空世界『OZ』の中のバトルの分野では誰も右に出るものが居ないと言われている程の強者「キング・カズマ」を操るプレイヤーだ。
彼自身も少林寺拳法の使い手であるおじいさまの手解きを受けていると言う。


しかし、四つ離れているとはいえまだ高校生に入ったばかりの佳主馬くんが一人暮らし…。


私はショックで開いた口が塞がらない。


「…千早だってもう家を出たいとか言ってたじゃん。」


ココアを飲みながら、さも軽い事の様に言い返されて。
私はやっと正気に返った。


「いや…私はもう二十歳だから……。
それならまだ佳主馬くんは十七歳だし子供じゃない」


「子供ではない」


「そ…うだけど。」


私は声を濁した。


まあ…確かに会った時と比べると、それなりに身長は高くなったと思う。
私より少し低い位置にあった頭も、今ではもうずいぶんと高くて少し見上げなくてはいけない。
…私の方は相変わらずだけど。


しかも今じゃ高校生で、地元にある公立の高校に不自由なく通っているらしい。


「でも、どうしていきなり一人暮らし?
前に合った時そんな事一言も言ってなかったでしょ?」


それに高校なら家の近くにあるはずだから、別に交通に不便と言う理由ではないんだろう。


色々考えていると、佳主馬くんがニコリと微笑みながらテーブルに手を付いた。


「ちょっと驚かせようと思ってさ」


「そんなの…驚いたけど…。」


なんとなく寂しい気持ちになっちゃうのは何故だろう。
別に離れる訳じゃないんだろう。
でも、引っ越しなんてしちゃったら…聖美さんともお話し出来なくなっちゃうし…。
まあ佳主馬くんと話せるんならそれでも全然良いんだけど、なんとなく心配って言うか…。


「…この近くなの?」


「ここじゃないかな。」


「じゃあ…学校の近く?」


「ちょっと遠い」


「…本家のおばさまのお家の辺り?」


最後に絞り出した案も、軽く首を振って返される。


…他にどこがあるだろうか?


考えても考えても出て来ない。


「解らない?」


楽しそうに笑う佳主馬くんの声に、何だか無性にむっと来て。
私は佳主馬くんに体当たりした。


「解らない。答え教えて。」


「正解は……」


答えを待つ。


近付いて来た佳主馬くんに耳を傾ける。


「…千早の家の近くのアパート」


「……えっ!?」


予想もしていなかった答えに、びっくりして顔を上げる。


「なんで!?」


「その方が千早来る時楽でしょう?
それに夜も安全。遅くなってもちゃんと送って行ける。」


親指を立てて真顔で返す佳主馬くんに、私は内心混乱した。


「でも…高いのに…。」


「まあそうかもしれないけど、俺いずれは家を出るつもりだったし。
どうせなら千早を呼んでもいいと思って。」


「呼ぶって…一緒に住むの?」


「そのつもりで、4LDKの部屋。
もう手続きも住んでる。」


佳主馬くんはちょっと嬉しそうな顔でピース。
私はまた開いた口が塞がらない。


しかも4LDKって…。


「どう、驚いた?」


「驚いた?じゃないよー…。」


私は力が抜けて、佳主馬くんに倒れ込んだ。


「…ちゃんと言ってくれれば、私も出せた。」


「俺が一人暮らしするんだから俺が出すのが普通でしょ?」


「でも…後の考えがあるんなら、私も出す」


「まだいい。…千早が俺のお嫁さんになってから。」


「それって年上としての立場はどうなるの?」


顔を上げると、稀に見る笑顔で私を見ていたので…これ以上言えなくなってしまった。
…この笑顔に弱いんだ、私は。


「冬のいつ?」


「三日」


「何月」


「一二月」


「…あと二ヶ月か…。」


「どうしたの?」


私の髪を撫でながら、佳主馬くんが不思議そうに言う。


「…一人暮らし。二人暮らしにしない?」


「え?」


ぴたりと動きを止めた。


私は笑顔で佳主馬くんにすり寄る。


「もしそうなったら、千早辛くなるよ?」


「辛くなったら休ませてもらう」


「それに…」


「佳主馬くん」


「……はい。」


「…お嫁さんにしてくれるんなら、問題無いでしょ?」


にっこりと笑って言うと、若干顔を赤くした佳主馬くんは私をぎゅっと抱きしめた。


「…たまにずるいよね、千早」


「佳主馬くんはいつも恰好良いよ」


「だ…から、そう言う事を言ってるんだけど」


最後には苦笑して、また私の頭を撫でた。


二ヶ月後の三日。
私は目一杯佳主馬くんの世話を焼きたいと誓った、ある晴れた日の午後。

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