★星箱
□未来はあなたと
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三月も中旬になって来ると、寒く冷たい風が吹くより温かく春を感じさせる風が良く吹く様になる。
春分の日も近くなり、今日は「春一番の風が吹く」と朝の天気予報で張り切っていた事をふと思い出す。
私の通う久遠寺高校も今日で見納めかと思うと寂しくもあるが…それよりも自分の世界が今よりもっと広がるであろうキャンパスライフも楽しみだと、悲しい気持ちに蓋をする。
隣では夏希が剣道部の後輩達と大泣きしているし、向こうの方では第二ボタンがどうのどこかの誰かがどんな子に告白しているだの、みんなとても悲しそうで楽しそうだった。
そんな中私は一人、教室に向かっていた。
クラスには誰も居ない様で、外で誰かの泣いている声が聞こえたりしていた。
「…もうここの席は私じゃない誰かの席になるんだなー…」
自分の座っていた席の机を撫でながら小さく呟く。
一年の時はとても時間が過ぎるのがあっという間で、友達が進級出来るか出来ないかで一悶着があった。
二年の時は夏希とずっと居る事が多くなって、一年の時よりもたくさん仲良くなれた。
そして三年に上がってひとつ季節を跨ぐと、日常では少し考えられないような事態に夏希が巻き込まれていた。
後から知って驚いたけど、一年年下の小磯健二君と付き合ったって聞いて驚いた。
いつの間にと言うよりも「良かった」と言う安心の方が強くって、初めこそ夏希を健二くんに取られちゃうんじゃないかって思ったけど、そんな事も無くって。
反対に健二くんに同情するくらいだった。
そんな夏も終わり、秋になって休みが重なったのをきっかけに、私はそのOZ騒動の間に亡くなった夏希の大おばあちゃん。
陣内栄さんのご冥福をお祈りするべく、陣内家にお邪魔した。
そこで出会った人達は、とても温かくて優しい人達ばかりで…よそ者の私であっても邪険にせず優しく接してくれた。
その中でも特別気に掛けて居てくれたのが、池沢佳主馬くん。
14歳の男の子だ。
彼は架空電脳世界[OZ]の中のバトルにおいて右に出るものが居ないと言われているキング・カズマのプレイヤーで、若干14歳にして大手のスポンサーを付けるなど。
ちょっと現実離れした天才だ。
そんな彼と付き合うようになって、私は本家の方へ遊びに行くようになったり。
またある時は佳主馬くんのお家に遊びに行ったり。
そんな事があってから、まだ一年も経っていないんだなと思うと、楽しい時間はもっとゆっくり流れれば良いのにと思ってしまう。
今日もこのまま本家の家に行って、集まれる人だけ集まった卒業パーティーをするらしい。
その様子を思い浮かべると、つい笑ってしまう。
しばらくぼーっとしていると、いきなり携帯が鳴り始めて驚きながらも液晶を見ると、佳主馬くんからの着信だったので慌てて通話ボタンを押した。
「もっ、もしもし!?」
「もしもし、今平気?」
気遣った様な佳主馬くんの言葉に、相手が居ないのにも関わらず首を縦に振りながら「大丈夫だよ」と返事した。
「そっか、良かった。
…今日来るでしょ、まだ帰ってない?」
矢継ぎ早な質問に笑いながら「まだ教室だよ」と返す。
「利一さんが車出してくれるって。」
「え、本当?夏希にはもう連絡した?」
「健二さんに連絡して貰ってる。
とにかく千早さんは今から正面玄関まで来れる?
そこの近くにあるパーキングに停めておくから、玄関まで来たらまた電話ちょうだい。」
「…え、佳主馬くんも来てるの?」
私の疑問に「そうだよ」と当然のように返して来た。
「…え、学校は?」
「休み」
「あ…春休みか…。」
「そ。じゃあ早く来てね。」
「解った。あとでね。」
私は携帯を閉じて窓の外に目を向ける。
外にはまだたくさんの卒業生達が居て、泣いたり笑ったりを繰り返している。
そんな光景を懐かしく思う時、私はどんな事をしているんだろう?
またぼーっとしそうになって、私は慌てて首を振って教室を出た。