★星箱

□待機期間
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…どうも。池沢佳主馬です。
来年高校を卒業します。


そんな俺は目の前に居る天使二人に、悶えています。


「佳主葉ちゃーん。解りまちゅか〜?」


一人の天使が、笑顔でもう一人の天使…妹に話しかけるのを母さんとリビングでお茶を飲みながら見ていた。


「きゃ〜」


「きゃ〜、可愛い〜!!」


顔を蕩けさせながら、千早は佳主葉にすり寄った。


…可愛いのは千早だよ…と小さく呟くと、隣に居た母さんが笑った。


「なに」


「あんた、守るものが増えたんじゃない?」


そう言いながら、視線では千早と佳主葉を見ている。


「…千早ちゃん、良いお姉ちゃんになるわねぇ。」


「そうだね…千早だし。佳主葉も懐いてるしね。」


「良いお嫁さんになるでしょうねェ…」


「そりゃね。…千早だし。」


「それになんと言っても…」


母さんはそこで溜めると…


「可愛いしね!!」


振り返って親指を立てた。


…親公認の彼女。
親、並びに親戚一同公認の婚約者。


そして…それを認めている千早の家族。


高校を卒業すると同時に、籍を入れる事を承諾してくれた。


…て事で、千早は事実上の…俺の奥さん。


22歳には見えない童顔と身長。
そして誰よりも優しい心の持ち主で、俺にとってはかけがえの無い…世界で一番愛しい人。


そんな彼女が、今俺の妹とじゃれ合っている。
佳主葉は嬉しそうに微笑んでいる。
…将来の奥さんに懐いている。


うわあ…これなんてやつ。


ていうかなんて拷問。
妹の前で恥ずかしい姿なんて見せたくない…見せたくないけど…。


「…佳主馬?」


ガタリと席を立った俺を不思議そうに見る母さんと佳主葉。
そして…千早。


「…佳主馬くん?」


きょとんと首を傾げている千早を見て、側まで行くとそのままぎゅうっと抱きしめた。


「…まったく。嫉妬深いお兄ちゃんねえ?」


「うー」


それに呆れてため息をつく母さんと妹の前で。
俺はさらにきつく抱きしめた。


「佳主馬くん、子供みたいだねー。」


「あい」


「ちょっと。」


すかさず同意したように返事した佳主葉に、俺は視線を向ける。


「やーの。」


佳主葉が千早の服を引っ張る。


「やだよ。」


「やいっ」


俺も千早を抱き閉める力を強める。
佳主葉は千早の足元に縋り付く。


千早が困った様に笑う。


可愛い可愛い妹だがここだけは譲れない。


「…バカなお兄ちゃんねー。」


「うー!」


ひっぺがされた佳主葉が非難の声を上げる。


俺はそれを見てニヤリと笑った。


「佳主馬くんってば…」


「嫉妬深いわねえ…そんなんじゃ千早ちゃんに嫌われるわよ?」


「嫌われる自身だけは無いよ」


「あんた…いくら顔ばっか良くってもねぇ…。」


「大丈夫です。佳主馬くんがこんな人でも…私はずっと大好きですから。」


言われて俺は、ハッと千早を見た。


首に回していた腕に、千早の手が重なる。
…こんなに、愛されてるのか…俺は。


にこりと笑った千早の横顔を見て、俺は心の中でそう呟く。
…幼い容姿も、身長も。
彼女の心とは反比例で…異常な程にお人好しで、人を信じやすくって…。
そして…本当に大きな心を持ったすごい人。


俺の狭い、ちっぽけな独占欲にも物ともせずに…。
彼女は面白いくらい素直に反応してくれる。


一人暮らしを打ち明けた時も。
婚約の事を打ち明けた時も。
行事ごとに集まりのある俺の親戚たちの事も。


彼女は信じて、受け入れ、笑った。


それだけで…他に何も言わない。
それだけで、それだけで全てを受け入れる。


彼女は時に、本当に素直になる。
拗ねたり。わがまま言ったり。
すごく怒ったり。
それがまた可愛くて。


そして愛しい。


だけど……。


「母さん。俺帰る。」


千早を抱き上げて玄関に向かうと、驚いた声を上げる千早。


そしてそれに苦笑で答えて手を振る母さん。


それに不満の声を上げる佳主葉。


そんな面々のリアクションを無視して、俺は千早を連れ去った。
 

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