★星箱
□いきなり始まる物語
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「え、ゲーム作るの?
佳主馬くんが?」
「うん、そう。」
驚きの声は、疲れ切った返答によって更なる驚きへと進化した。
…て言うか驚いてそれどころじゃないとだけ断言しておこう。
「え、え?じゃあこっちに来るのって、その研究所かなんだっけかがこっちにあるから?」
「そう言う事。」
「ふへ〜…」
私は佳主馬くんの話しを聞いて心底驚いた。
万助おじさんが「佳主馬はゲームを作れるんだぞ!」って、酔った勢いで話してくれてて、実際に佳主馬くんの作ったゲームをやらせてもらったけどかなり、かっ、なっ、りっ、作り込んであってとっても楽しかったのを覚えている。
…そっか、とうとう会社も乗り出したんだ…
「…千早?大丈夫、急にしゃべらなくなったけど。」
「いや、びっくりしちゃって。
…すごいな〜佳主馬くん。」
「いやそれもそうだけど。
そっち行った時千早の家に泊まりたいんだけどいい?」
「ウチなら大丈夫、あの部屋はもう佳主馬くんのだと思ってくれていいって、お父さんもお母さんも言ってたし。」
そう言うと「そっか」と小さく笑って返してくれた。
佳主馬くんはもう高校生になって、私も大学三回生になる。
名前を呼び捨てで呼ぶ様になったのは最近で、身長なんて、さすが男の子。
ぐんぐん伸びて、10cmあった身長差は一気に縮まった。
今では佳主馬くんの方が少し大きいと思う。
本人曰く「牛乳毎日飲んで魚ばっかり食べたから」らしい。
いつの間にか大きくなっていて、私は会ったらまず身長の確認をしてしまうくせがついた。
…そうすると佳主馬くんはかなり嬉しそうな顔をする。
私は内心嬉しかったり悲しかったりの波がぐらぐらと不安定に揺れていた。
「いつ来る?来週あたり?」
「それ位かな。高校は休学って事にしてくれるみたい。
会社側が学校を説得したんだって。ある意味凄いよね。」
「凄いのは佳主馬くんの頭の良さだけどね。
下手したらウチの大学よりもいいとこ狙えるし!」
私は最後に「いいなぁ」と呟いた。
「…あと3年早く生まれてたら、千早と同じ大学受けれたのにね…」
「でもそればっかりは誰にも文句言えないしね!
私は嬉しいけどな〜、佳主馬くんがわざわざウチに近い会社を選んでくれた事!」
「えっ!?」
驚いた声を上げる佳主馬くんに、してやったりの顔でガッツポーズした私。
実はOZ経由で万助おじさんに聞いていたりする。
わざわざウチに近い会社候補を挙げて行って、その中から3社選んだと言う。
…選べる立場って凄いな、と今更ながら納得した。
「えへへ、万助おじさんがそう言ってた。」
「なんだ、師匠か……
黙っててって言ったのに。」
「嬉しかったな〜!」
「当たり前だろ。
じゃないと千早に会えないし、なにより俺の欲が溜まって体に悪いし。」
「よ、欲って…!!」
余りにもストレートな言い方に、私は顔を赤らめる。
「要するにエッチがシ足りないって事。」
「わ、解るよ!そんな言い方しなくても!!」
私がそう切り返すと「へえ?」と小さく笑って返した。
…あぅ、楽しんでる……
「だって、千早大学忙しくて最近会ってないじゃん。
俺が無理矢理そっちに行かないとヤる機会無いし。」
「うっ、忙しいのはごめん…
だってもう、来年就職だから」
「うん、その事なんだけど。
千早もここに来ない?」
「ここって…SG?
佳主馬くんがゲーム担当するって言って今度から行く事になってる?」
「そう。俺もうそこを就職先として決めてるからさ。」
え、もう?
と言う私の言葉は、
佳主馬くんの「千早の家から近いから」と言う言葉に重なって消えた。