Black Groups

□目を細めて空を見る
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暑い組織の射撃訓練室に、さらりとした銀色の髪を揺らしライフルを構える1人の少年がいた。髪はもう少しで肩につくほどの長さ。すらりと伸びた背筋に少年特有の手足の長さと背丈のアンバランスさを醸し出している彼は黙々と射撃距離500yのシュミレーションを繰り返していた。
残り一発。次で弾を装填しなければ、と考えを巡らせていると、ふと後ろに彼女の気配を感じた。

「ベルモット?」
「そうよ。貴方、集中するとすぐ時間を忘れるもの。迎えに来てあげたのよ」
「うるせえ、俺はもうガキじゃねえ。お節介焼くな」

素直じゃない子、というベルモットの言葉を聞き流し少年は耳を撫でるかのような動作で邪魔な髪を耳にかける。ふと視線が黒いベルトの右手首に寄り、文字盤を見つめ、一つ舌打ちをこぼした。

「ほら。忘れてたじゃない」
「……チッ、」
「行くわよ。坊や」
「坊やじゃねえ」
「ごめんなさい。そうね、
……ジン。次の仕事も貴方のサポートがしたいわ。Good Luck.
ーーーいつも通り貴方らしくね」
カチ、と細い煙草を指に挟み、ベルモットは細い紫煙を紅を引いた唇からこぼした。

「……ただ正確にあのお方の命を遂行するだけだ。今更何も思わねぇよ」
「そう。ゾーン3まで乗せてくわ。行くわよ、ジン」

いくらか使い込まれたライフルにまだ新しさの残る、一目では楽器ケースのような黒いライフルケース。右肩に引っ掛け、横に畳んでいた膝にかかる程のロングコートを羽織る。そのポケットにひんやりとした特殊警棒がある事を確認して、彼は蒸し暑い射撃場を後にした。









***


「これがイヤホン。まだ大量生産が利かないコードレスタイプだから大事にしてよ?」
「……分かってる」

まるで中学校の入学式に送り出す母親かのごとく、ジンにイヤホンを手渡しながらあれこれ世話を焼くベルモットは腕時計を一瞥し、彼の頬を両手で包みジンの目をまっすぐ見つめた。
「分かってるわね?」
「ゾーン3から1人で上に行き、21:20に向かいのビルから出て来るジャックを撃つ。隣にいるキングはコニャックが殺る。……だろ」

なんて事もないといわんばかりにジンはフンと鼻を鳴らした。

「あのお方がここまで俺を仕込んでくださったんだ。きちんと仕事をするのは当然だろ」
「そうね。いつも通りきっちりやりなさい。何かイレギュラーがあればすぐに連絡する事」
「……分かってる」

声変わりしたての低い声を発する口がニヤリと歪む。銀髪から覗く濃い緑色の瞳が細められ微かに興奮が滲む声色でジンは呟いた。
ベルモットの驚いた顔を一瞥し、彼は1人で空きビルの金属扉を押して行く。

「『画面越しじゃねえ生きたモノを狩れるって考えるだけでたまんねえんだ』……ねえ」

カチリ、とライターを点火した音が小さく響き、細い紫煙が空に溶けた。
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