御題
□彼への想いは、縹のように
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(あ、慶次さん)
京の街、祭の日。
何時もの様に彼はやって来た。
その長い髪を靡かせ、幾人かの美しい女性達を侍らして。
「ホンマ、慶はんと話してるとおもろいわぁ〜」
「へへっ、そう言って貰えると嬉しいねぇ!」
慶次さんは片方に嬉しそうに笑いかけている。
その様子を見て、思わず自分の縹色の粗末な着物をギュッと握り締めた。
それは、私が恋い焦がれている慶次さんに甘い声色を発している女性に対する物ではない。
本気で想っているのは只一人しかいないくせに、それを隠すかのようにへらへら笑っている慶次さんに対してだ。
慶次さんが始めてこの街に来たときは四人だった。
慶次さんの倍以上はあるであろう体格の男性、仮面を被った中性的な顔の(恐らく)男性。
そして、とても美しい、菫色の着物を纏った女性。
仲良さげなその四人は、その時始めて見ただけだったし、見たと言ってもすれ違い様にチラリと見た程度。
それでもハッキリと解った。
―――ああ、あの人は女の人に恋をしている。
その後も四人で、はたまた慶次さんと女性――ねねさんという名だと、後に知った――だけで京の街に来ていた。
けれど、ある日を境に慶次さんしか来なくなったのだ。
「――お、あんたら、もしかして恋、してる?」
不意にまた慶次さんの声が聞こえてきた。
そっと顔を上げてみれば、恥ずかしそうに体をくねらせる女性達。
―――酔った彼の相手をしていたとき、聞いた。
「俺には好きな人がいる。もう死んじまったのに、未だにその人の事を忘れられない」
「俺が本当に、心の底から恋したのは、今までも、きっとこれからも……ねね一人だ」、と
それを聞いたとき、私の恋はもう終わっていたのだ。
想いを告げる前に呆気なく終わった、儚い恋だった。
「うちらはもうずっと慶はんに惚の字やわ〜」
「んもう!慶はんのいけず!」
「お、相手は俺かい?へへ、こりゃ参ったね…」
満更でも無さそうな顔を繕っても、私には分かっている。
あの女性達を、本気で想えない事なんて。
いくら想いを告げようと、彼には届きはしない。
彼への想いは、縹の様に
(只虚しく、移ろうだけ)
fin
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蛇足
縹は青の代表的な色で、花色、露草色等の別名を持っています。
儚いもの、移ろいの象徴的な色とされています。
title by "彩りで世界を染めて"様
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