小説 夢の中
□ワンモアタイム
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♪〜ダリアの花の 花言葉には〜
あなたの声は、いつも録音された物でしか聞けない。
「名無しさんー、ご飯よ」
動かしていた手を止め、リビングへと向かう。
「勉強はどんな感じ?」
『捗ってるよ』
あなたの声を聴きながら、私はいつも勉強をしている。
『番組表見ていい?』
「どうぞ」
母がコップにお茶を継いでる間、わたしはテレビの番組表を見た。
『あっ』
番組表を見ていると、あなたの所属しているグループ名があった。
明日、生放送で出るんだ。見なきゃ。急いで録画をし、何事もなかったかのようにまた前を向く。
「あっ、そうだ、今度ママの好きなさざなみオールスターズがライブしに来るのよ〜。ママ行こうと思うんだけど、名無しさんはどうする?」
さざなみオールスターズとは、昭和の頃から続くグループで、リリースする曲は、次から次へとヒットする。この度、25周年記念で私の県にも来るらしい。
『うーん。考えとくね』
そう言うと、わたしは人参とごぼうのきんぴらを口に運んだ。
――
『わあ』
今日は、前に話したさざなみオールスターズのライブがある。
そして、今その会場に私は居る。
「どう?良い席でしょ。ママ、頑張って良い場所をとったのよ」
ふふん、と鼻を高くして、母は自慢してきた。
『すごいじゃん。あっ、ねえ、このサプライズゲストってなに?』
わたしはパンフレットのその文字を指さしながら、訊いた。
「ああ、それねえママも分からないのよ。どんな人が来てくれるんだろうね」
母は、にこにこしながらそう答えた。
ああ、あなたがもし来てくれたら―なんて、叶うはずもない望みを胸に抱きながら、ライブは始まった。